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魔女と呼ばれる私、癒しの花を咲かせます  作者: しぃ太郎
第二章 優しい手、小さな息吹

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第22話 早く大人になりたかった



「キアン。あんた頑張ったんだってね」


 いきなり話しかけられて布団に潜った身体が強張る。

 最初から気づかれていたみたいだ。当たり前か……。


 今さら誤魔化せない――。


「……違う。何もできなかった。ルミアが連れ去られそうだったのに……何もできなかったんだ」


 布団を握りしめ、背中を向ける。

 あまり痛みは感じなかった。

 薬のおかげ――というよりも、ルミアの、あの不思議な力が原因のような気がする。


「大の大人でもね、躊躇ったり逃げたりするんだよ」

「だから!……何もできなかったって言ってるだろ!俺がもっと大人だったら……!」


 反射的に言い返してしまう。

 ルミア母さんは後が怖いのに。いつもは受け流すのに。


 俺はそのまま、もう一度布団を頭から被った。

 背中を向けて丸くなる。


「ルミアにはきっと幻滅された。俺が頼りないから、あの時、途中で……諦めさせた」


 グッと押し黙った後、小さな声が布団に吸い込まれていった。


「……俺、早く大人になりたい……」


 言っても無駄なのはわかる。

 でも、それ以外の言葉が思いつかなかった。

 力で敵わない。

 大切な物さえ、簡単に目の前で奪われていく恐怖が身体に染み込んでしまった。


「うん。早く大人になりな」


 エレナ母さんは、布団の上からポンポンと強めに叩いた。

 何も言い返せない。

 ただの八つ当たりしかできない自分に嫌気がさす。


「結果を見なさい。ルミアは無事だった。それが全部だ」


 黙ったままの自分に呆れたのか。

 それともこれが大人の優しさなのか……。

 エレナ母さんは黙って部屋から出ていった。




「キアン、目が覚めたって?」

 入れ代わりに、アルが入ってきたようだ。


「お前が生きててくれて良かったよ……。本当にごめん」


 珍しく、彼の声が震えている。

 こんな事は出会ってから初めてだった。いつも余裕そうな声と態度しか見たことがなかった。


「……お前のせいじゃないだろ」

「そうかもな……。じゃあ、お前はなんで自分を責めてるの」


 切り返された言葉に、ぐっと喉が詰まる。


「ルミアちゃんも、お前が自分を責めてたら気まずいだろ……。だいぶ落ち込んでたぞ」

「……ルミアに会うのが怖い。情けない所しか見せられなかった。……それに、あんなに泣かせた」


 さらに布団を握りしめる。目を閉じても、あの光景が頭から離れない。


「じゃあ、距離を取ればいい。俺みたいに」


 軽い口調で話しているが、しかし、その声はいつもと違った。どこか真剣味を帯びている。


「アルみたいに?」

「誰にも思い入れないで、親切なふりだけしていれば結構上手くやっていける」


 そこで彼は口を閉ざした。

 そして、一度ふっと息をつくと、話し声が軽くなった。


「でも……。キアンには無理だろ。なら、もうどうしようもないじゃん」

「……でも」


 ぎしり、とベッドの近くで音が鳴る。

 椅子にでも座ったんだろう。

 アルの声が近くなった。


「俺は、あの時に詰め所まで走った。間違いだったとは思っていない。でも……怖かった。戻った時に、どうなってるかわからなかったから」


 意識が曖昧だったから知らなかったが、アルが助けを呼びに行ってくれたらしい。


 ――あの時は本当に助かった。


「でも、お前はあそこで踏ん張った。……それに、これからも側にいたいんだろ?」


 言葉が出てこなかった。


 側にいたい?

 そうだ。

 知らないところでルミアが傷つけられるのは、絶対に嫌だ。


 じゃあ、今のこの感情は……。

 逃げられない、側も離れたくない。

 でも、顔を合わせる勇気が出ない。


「俺、拗ねてたのかな……」

「はは!だいぶ大人の感情だな。羨ましいよ」

「馬鹿にしてるだろ」

「してないよ。ただ自分が許せなかったんだろ。……お前、凄かったよ」


 いつも、俺をからかってばかりのアルにしては、それは優しい言葉だった。

 こいつも、色々と今回の事で思うところが多いのかもしれない。


「ルミアは大丈夫かな……」

「お前、他の男に彼女を慰めてもらいたいの?自分で話しなよ」

「うるさい。もう、お前嫌い」


 アルが部屋から出ていく気配がした。

 周囲を静寂が覆う。

 しかし、俺は布団から出られない。


 ――それは、漏れ出る嗚咽を隠しきれなかったからだった……。


 閉め切ったカーテンの暗がりに安心する。


 そうだ。

 答えなんて決まっている。

 出会ったときから、惹かれていたんだ。

 路地裏の暗がりでも、世間を憎まず、ただの意地だけで立ち上がった彼女の姿が、何よりも強く思えて。


 少し休んだら俺も立ち上がらなければ。

 あの時は、なんて声をかけたんだっけ?


『逃げろ!立て!』


 そう無責任に外から声をかけた俺に、自分の力だけで立ち上がった姿を見せてくれた。


 ――こんな暴力を振るわれた直後に。

 それなら俺は、同じように立ち上がってルミアを安心させなければ。

 傷ついたふりなんて見せないで。

 彼女が自分を責めないように平気なふりをしてあげなければ……。







 

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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