第21話 誇っていい
翌日、エレナさんが大きな鞄を持って駆けつけてきた。
きっと慌てて出てきたのだろう服装で、髪も纏めていなかった。
「うちの宿で、こんなトラブルを起こしてしまい、申し訳けありませんでした」
宿の夫婦と、キアンの友人のアルが頭を下げていた。
いたたまれなくなって、私も頭を下げる。
原因は私が拐われそうになったからだ。
キアンが気づいてくれたから、私はここにいられる。
でも――。
「エレナさん……ごめんなさい。キアンが私のせいで」
「話は聞いてるよ」
エレナさんは私の肩に手を置くと、アルのご両親に顔を向ける。その手は力強くて、温かかった。
「どうしようもなかったんだろう。キアンもルミアも無事だった。……私の責任もあるしね。通いやすくて、すぐに部屋を確保してくれる宿を手放したくないよ」
そう言われた三人はさらに頭を下げた。
エレナさんは、それを見て息をついたが、それ以上は何も言わなかった。
「じゃあ、ルミア。まずはキアンの部屋に行こうか」
エレナさんの言葉に、私は黙って頷いた。
振り返ると、アルが視線を落としている。
――友人が襲われたんだ。
しかも自分の宿で。
辛いのは当然かもしれない。
「……アル。あのね、キアンから話を聞いていたの。友達だって。原因は私でしょ?……自分を責めないで」
申し訳なくて、両指を胸の前で絡ませる。
彼の顔がくしゃりと歪んだ。
「こら、ルミア。あんたにはちゃんと話をしておく必要があるね。早くおいで」
「え、あ、エレナさん……!ちょっと待って」
私は引きずられるように、階段を上がっていった。
でも来てくれてよかった。
キアンもきっと安心するだろうし。
――私も、エレナさんと一緒にいると、やっと息ができる気がする。
◇◇◇
ベッドに横になっているキアン。
包帯だらけで、痛々しい姿だ。
それを一回、全部取って怪我の様子を確かめる。
ひとしきりキアンの状態をみたエレナさんは、息を吐いた。
「良かった。聞いていたより重症じゃないよ。すぐに目を覚ます」
キアンの額に乗せたタオルを替えながら、
静かに荷物の中の薬を出すよう指示を出した。
そして、私に対して真剣な声音で告げた。
「ルミア。あんたは被害者だ。その怒りは犯人に向けなさい」
「でも……!」
その言葉に、身体が反射的に拒否をして強張ってしまう。
口から出てくる言葉も、それを否定していた。
「……私のせいです。キアンはこんな怪我をしなくても良かった。本当ならこんなに酷い目に遭わなくても良かったんです」
言い切った後。
数秒の沈黙が落ちた。時計の秒針の音が耳につく。
「あんたがそう考えるのも無理ないけどね」
エレナさんは、ことさら静かな口調で私の両腕を取った。
「キアンは誇っていい。女の子を守りきった男に贈る言葉はありがとうだけだよ」
強い眼差しで見つめられる。
キアンの前で、自分を責めるな――。
そう言われた気がした。
「わかりました。キアンの目が覚めたら、最初にお礼を言います……」
私が俯いて答えると、温かい腕に抱き込まれていた。
張り詰めて、それでも耐えて、見ないように必死に目を逸らしていたものが、プツリと切れた。
「怖かったね。偉かった。ルミアは怖いなかでも、ずっと頑張った。そこは忘れちゃ駄目だよ」
「はい……。怖かったです……。力では敵わないし。キアンが痛いのも嫌だった……!」
私はエレナさんの胸に縋り付いて大泣きしてしまい、そこで眠ってしまった。
ようやく、あの長い夜が終わった――そんな気がしたのだった。
◇◇◇
「コラ、タヌキ寝入り息子。
全部聞いてただろ。どうせあんたのことだから、守りきれなかったとか、無力だとか考えすぎてるんでしょ」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
もし物語を楽しんでいただけましたら、
評価やブックマークで応援していただけると励みになります。




