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魔女と呼ばれる私、癒しの花を咲かせます  作者: しぃ太郎
第一章 小さな種と冬の陽だまり

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第1話 陽だまりの手を、初めて握った日

痛くても立ち上がる彼女が、読者の皆さんに、「好きだな」と思ってもらえる子になれれば——それだけで、私はとても嬉しいです。


 ——それは、火事が起きる5年前の、秋の終わりだった。

 よく晴れた普通の日。


 大通りは小綺麗な服を着た人達で活気に溢れている。

 いつものように、私は街の男性に憂さ晴らしに蹴られて罵られた。そう、いつも通りの日々。


 街を彷徨い歩き、路地裏から身を潜めて、カモになりそうな裕福な貴婦人と子供に目をつける。

 

 私には癒やしの魔法が使える。この力は私達の孤児グループの命綱だ。盗みよりもリスクが低く、きちんと治してあげてお駄賃を貰うだけ。


 ――今回の協力者は、目の前の母親とその子供に目を向けたらしい。


「よし、行くぞ」

『赤髪』と呼んでいる彼が走り出した。


 こちらを一瞥してから、少年に向かって走っていった。

 彼がワザとぶつかり相手に怪我をさせる。

 それを私が癒して、上手く行けば小銭、貴族なら見栄を張りそれなりのお金を落とす。


 有効な手段だけれど、私の魔力はそこ迄強くない。

 一日に一回か二回が限度だ。


 この力はかなり珍しいらしいけれど、聖女候補になる程の魔力は無い。本当に小遣い稼ぎにしか役に立たない力。

 でもこのお陰で毎日パンが食べられる。


 少し痛い思いをするかもしれないけれど、毎日気まぐれに暴力を振るわれる私達よりはマシでしょう?


 突然走ってきた孤児に体当たりされて怪我をした、可哀想な女性やその子供の傷を癒してお駄賃をもらうのだ。

 

 そう二人組でやっている。これが私達の稼ぎ方だった。


 ――偶然を装って通りかかり。

 純粋そうな振りをして。

 ただの親切に見せかけて。


 同じ仲間に見えないように、私だけは少しだけ綺麗な服を着ている。

 整った顔立ちも役に立つらしい。

 私の髪と瞳は不吉な色だと忌み嫌われる場合もあるけれど、富裕層の子持ちの女性は私に同情的だ。


 ――何故不吉かって?

 理由は、この赤い瞳だ。

 

 名前も呼び合わない私達。最初から名前のない子供もいる。

 大抵、身体の特徴で呼び合う。

 私は『あかいろ』と呼ばれていた。

 銀髪に、血のように赤い瞳。不吉な組み合わせらしい。


 上手く相手を転ばせた『赤髪』はそのまま路地裏に逃げていく。

 私は偶然通りがかったように手を差し伸べて言った。


「大丈夫ですか?お怪我は?――私には癒やしの力があるので、怪我が無くても痛みだけでも消せますよ」

「まあ、ありがとう!この子が、尻もちをついて痛そうなの」


 女性は幼い子供を立たせながら私に言った。

 大きな怪我はなさそうだけれど、確かに痛みで泣き出しそうだ


「はい。じゃあ、痛いの治しましょうね?」

「……うん。――わぁ!凄い!」


 私の手からほんのりと光が発せられ、癒やしの魔法が発動する。見せかけだけで、ほんの少しの癒やしの力。


「ありがとう!痛くなくなったよ!」

 その子は嬉しそうにお礼を言い、その母親はお礼にと、銀貨を二枚もくれた。

 銀貨が、キラリと反射した。


「こちらこそ、こんなに沢山のお礼をありがとう」

 親子に笑顔でそう言って、すぐに立ち去る。

 顔を覚えられたら面倒だからだ。

 

 ――その子が私を見上げた笑顔が、胸の奥にじわりと染みた。こんなはずじゃなかった。

 こんなふうに笑顔を向けてもらえる存在じゃない――そう思った瞬間、私は、路地の影へ走った。



 路地に戻ると『赤髪』が、銀貨を私から取り上げて、親指で違う通りの方向を指差す。


「よし、今日は上々だ。次に行くぞ」

 

 そう。私はこの生き方しか知らない。

 これが私の『当たり前』の普通の日々だった。

 これが続くと思っていた私はとても無知で愚かな孤児でしかなかった。


 ◇◇◇


「捕まえたぞ!このクソガキが!」

 私は突然に自分よりも倍近い大きな男性から腕を掴まれてしまった。あまりの強い力に、心の底から恐怖が込み上げてくる。

 慌てて『赤髪』を探すが、既に彼の背中は遠く小さくなっていた。

「あ……」

 

 ――見捨てられた。


 見捨てる?違う、当然だ。私達はこうやって生きてきた。

 今回は私の番だってだけ。

 それでも、やはり怖かった。


「すいません、ごめんなさい、もうしません……!」

「この詐欺師の魔女が!この辺りで悪評が立って店の客が減るじゃねぇか!」

 

 私の言い訳なんて通じるはずが無い。でも謝るしか方法がない。既に私の運命は彼に握られてしまった。


 男性達が周りを取り囲んでいる。もう逃げ場が無い。

 見覚えがあるその人は、この辺りで店を出している店主だったみたいだ。


「いい迷惑だ。孤児が店の前を彷徨いているだけでも見栄えが悪くなるってのに、その不吉な色で悪さまでしやがって!」

「痛いっ……!」


 髪を引っ張られる。そのまま地面に転がされて、路地の方へ引きずられていく。石だらけの地面が、頬を削る。

 

 ――怖い。誰か。――誰か?

 周りは、周りの人の反応は。汚いものを見るように目を背けている。

 視界の端に偶然入ったその人は――。それは。それは、さっきの、銀貨をくれた優しそうな女性だった。

 私から目を背けて、笑顔を――私に向けてくれたその子供の目を手で塞いでその場を足早に立ち去っていく。


 痛い。何が?身体が痛い。そう。それだけだ。他に理由なんてないわ。

「うっ!……!くっ……!」

 殴られた頬が痛いだけ。引っ張られた髪が痛いから涙が出るだけだ。

 ――痛い。でも、その涙がなぜ、こんなに熱いのか。


「この魔女が!」

「汚い孤児を懲らしめてやる!ほら、立たせろ」

「悪い事をしてるからこんな目に合うんだ!自分を恨むんだな!」

 ――自分を恨む?私は、ただ、パンが食べたかっただけなのに。与えられないから、どうにかして自分で手に入れるしかなかった。


(ああ、神様、この瞬間の痛みを消してください。痛いんです。もうそれだけしか望みません)


 繰り返さる暴力の波に翻弄され――。

 手足の感覚も既になく、目がぼやけて見えなくなって来た。


 もういいや――。そう、目を閉じようとしたその時。


「逃げろ!立て!」


 まだ幼さの残る、少年の声だった。

 暗い路地からは逆光で姿が見えないけれど、シルエットはそこ迄大きくない。


「こんなに大勢の人間が目を逸らして、情けない世の中だな!どうせなら、小さな女の子を殴って越に入っている奴らの顔を覚えて噂でも流してやれよ!ほら、あいつらだ!」


 辺りに大声が響き渡った。周りの大人達も突然の大声に動きが止まったようだ。


 ――逃げろ?

 逃げたいよ。でも、何処に逃げろって?どうせまた捕まって同じ事の繰り返しなのに。

 ――立て?

 立ちたいけれど、もう足が感覚がない。歩き出す力が出ない。どうやって立てばいい。


 でも。

 その声だけは、今まで誰も、私に投げかけたことのないものだった。

 いつも目を背けられる、汚い孤児に。


「……無茶をいうのね……。でも、私だって……そう。私だって、これまで自分の足で……立ってたんだから……!」


 倒れ込んだ身体に力を入れる。

 手を地面をにつき、力を入れる。小さな小石が掌を傷つける。

 痛い。それでもグッと身体にもっと力を入れる。

 痛い。身体が重くて、息が出来なくて涙が出る。


 ようやく膝を立てられた。

 激痛が走る。でも、足が地面についた。

 もう少しで立ち上がれる。

 頭がくらりとし、視界の端が黒くなる。

 

 ――痛い。ここまで頑張る意味?自分でも理解出来ない。

 

 わからない。ただ、自分が立ち上がれる人間だと証明してみたくなったから?

 この後なんて関係ない。誰が見ていようと目を逸らそうと関係ない。

 この後立ち上がって死んでも、私は自分で立ち上がれる人間だって事を証明できる。


 何故か周りが静かだ。

 沈黙が落ちた、この場所に一瞬混乱する。


 そんなに立ち上がるのに時間がかかったのだろうか。それとも興が削がれて解散したのか。

 気付いたら、私に暴力を振るっていた人達が消えていた。


――パチパチパチ。

「凄いよ、お前。本当は手助けするつもりだったのに、本当に自分で立ち上がったじゃん」


 さっきの彼が私に手を伸ばす。ようやく、路地裏から自分の足で出た先に見た彼の笑顔は、少年らしさと力強さに溢れていた。

 

彼の明るい琥珀色の瞳、金褐色の髪色。

 明るい所で見ると、それは金色にも見える。

 キラキラと輝く髪の色とその笑顔はとても鮮やかで、まるで陽だまりのようだった。

 

 でも、同じくらいの歳の少年――子供だった。

 やはり大人は怖いので、同じ子供同士という事に心の何処かで安心してしまったようだ。我ながら単純すぎる。

 

 これが、私が明るい場所に一歩踏み出した瞬間だった。

 その光が、彼のその笑顔が、まだ。

 

――少し、眩しかった。

 

 

今日も、書き終えました。

また、明日も、少しずつ書いていきます。

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