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魔女と呼ばれる私、癒しの花を咲かせます  作者: しぃ太郎
第二章 優しい手、小さな息吹

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第16話 キアンの家出③



「……た、ただいま」


 昼過ぎ頃に、キアンは玄関前に立っていた。気まずそうに指を何度も組み直している。 


「キアン。まずはおかえり」


 エレナさんが言った。

 そしてその直後に、彼の悲鳴が上がった。


「……ぐぅぅ!!痛い!」


 エレナさんからゲンコツを食らったらしい。

 セラちゃんが、その後ろでからかっていた。


「家出少年、一夜で帰る〜」


 私は、そっと彼に声をかけた。


「おかえり」

「あ。……ああ、ただいま。ルミア」


 視線を合わせてくれない彼が焦れったくなって、自分の部屋に引っ張って行く。

 彼は大人しくついてきてくれた。


 私は、ずっとキアンに聞いて欲しかったのだ。自分の感じた事、全てを。

 だから、キアンをずっと待っていた。


「この世界、少し理不尽じゃないの?……私やあの子がこうやって扱われるの、酷く歪に感じるの。キアン、キアンはどう思う?」


 これは、エレナさんにも話していない。

 ただ、キアンに分かってほしかった。

 初めて感じた気持ちと疑問を、彼に分かってもらいたかった。


 部屋に入ってから、少し肩を丸めていた彼。

 私が話している間、ずっと真っ直ぐに私を見つめていた。


 話し終えた私の興奮を宥めるように、ゆっくりとした声で彼は答えてくれた。


「俺は前に伝えたよ。黒猫が好き。ルミアの赤い瞳が好き。だから、ルミアが今感じている、その『理不尽』。大嫌いだった」

「うん、そうだった」


 優しい人たちは、私に教えてくれていたんだ。

 これまで、私が勝手に「当たり前」だと思い込んでいた。


「……俺はずっと伝えてたよ。意味、わかる?」


 そっと、手を取られる。その瞬間、体温が跳ね上がった気がした。

 視線を合わせられなくて、下を向く。


「うん、キアンはずっとそうだったね。あのね、だから私は……」


 ――好きになったんだもん。

 キアンは重ねるように、何度も伝えてくれた。

 私の心に染み込ませるように。


「俺は、ずっと伝えてる……。それに好きだって何度も言ってる」

 真っ赤になりながらキアンは私を抱きしめる。


「あの時、ルミアに追いつけなくてごめん。逃げ出してごめん。話を聞くのが遅くなってごめん。でも、ありがとう。俺に、一番に話してくれてありがとう!」


 一拍の後。

 彼は我に返ったように、距離を取った。


「あ、あ、今のは暴走した!でも、嘘じゃない……!俺の気持ちは絶対に嘘じゃない」

「あ、うん……」


 二人で数秒見つめ合う。

 外では鳥の声が響き。

 遠くでは人の賑やかな声が聞こえてくる。


 でも、この空間だけは、ただ二人きりのような静寂を感じて――。


「俺は、ルミアが好きだよ」


 彼は、ふっと息をついて笑った。


「私も……!私にとってキアンはずっと光だった。だから惹かれるのかと思った。――でもね。今、真っ赤になってるキアンが。家出して、気まずそうにしているあなたがね」


 自分で声が上擦るのがわかる。

 私は両手を握りしめて、必死に声に出した。


「不器用で、照れ屋で、でも格好いい、そんなキアンが。とてもとても好きだよ」


 最後は囁くような小さな声になってしまったけれど。


 ちゃんと彼に届いたみたいだ。

 キアンは袖口で顔を隠して赤くなっていた。


 それが、とても愛しく思えた。


 

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