第13話 世界を映す瞳
私は、いつの間にか逃げ出していた。
知らない道を進む。
それでもどんどんと、スピードを上げて走っていく。
人にぶつかりながら、転びそうになりながら。
一人になりたかった。
自然と人の気配を避けるように、どんどんと村の外へと向かって走っていった。
いやだ。
なにが?
とにかく走りたい。逃げ出したい。
何かわからないものから、全力で逃げ出したかった。
こんなにも走った。
息があがって苦しい。
空気を求めて呼吸を繰り返すが、まともに胸に届かないみたいで。
どんどんと息苦しくなる。
――ようやく人の音がしない場所にたどり着いた。
誰もいない。
安心して、足を止め。
ゆっくりと深呼吸をする。
薬草園の近く、村の境界まで来ていたようだ。
目の前に広がるのは生い茂った森だけ。
これ以上向こうへ行けば森の中に入ってしまう。
その手前。
私から少し離れた先に。
誰かに殴られたのか、足を引きずり軽くお腹を押さえている少年がいた。彼はこちらに気づき、その目を向けた。
――赤い瞳。
私と同じ赤い瞳。初めて見た。
「なんだ、お前も同じか」
「え……」
「どうせ、他の奴らに傷つけられて逃げてきたんだろ」
赤い瞳が、私の姿を、全ての痛みを映し出しているようだ。
頬に冷たい風を感じて、初めて自分が泣いていたことに気づいた。
目から溢れていく水滴。
「違うよ。……私が勝手に傷ついちゃっただけ、で」
「ふーん。……じゃあ、恨んでも憎んでもないって?こんなクソったれな世の中に?」
彼の瞳が、夕陽に染まる。
真っ赤に染まった、燃え上がるようなその『赤』から目を逸らせない。
「……その傷、どうしたの?怪我しているなら手当てを……」
「いらない。どうせ明日も殴られる。見た目が痛そうだと、少しは手加減してくれるし」
それは。
それを当たり前に語る彼の生きている世界は、なんて残酷なんだろう。
私より少しだけ年上に見える少年をここまで毎日殴る理由は何なんだろう。
――『赤い瞳』で不吉だから?
それは彼が悪いから?
そう生まれてしまった彼のせいだから、毎日暴力を受けるの?
それは、それは――。
なんて理不尽な世の中なんだろう。
私は初めて、彼の瞳を通して世界を覗き込んだ。




