プロローグ 薬草園の炎
不吉な色を持つ少女が頑張るお話です。
「薬草園が!!」
私は目の前に広がる巨大な炎に声をあげた。
夜中のはずなのに、その炎が辺りを赤く照らして、黒い影を作り出す。それが燃やしているのは貴重な薬草の数々。
――大切に育ててきた、エレナお母さんから受け継いだ薬草園が火に包まれている。
葉先から火が走り、まるで植物自身が悲鳴を上げるように、パチパチと音を立てて爆ぜる。
薬草の香りが、焦げた臭いに変わり鼻の奥を刺す。
大切に育ててきた薬草たちが、黒い影へと変貌する。
そして、物凄い煙の量だった。
その黒い煙が風に乗ってこちらに流れてくると、袖口で顔を守っていても息が苦しくて仕方がない。
熱気に包まれながら、黒く崩れていく薬草。
燃える。
全部燃えちゃう。
――早く。
早く消さなければ……。
だって必要だもの。これが無くなれば薬が足りなくなる。エレナお母さんが村の為に遺した大切なものだもの……。
「……水! 桶を、早く持って来ないと……!」
先ずは、人を――キアンを呼ぼう!
それから、家にある水を全部かけて、桶で井戸まで――。
炎の熱気と煙で視界が悪い中、ほど近い家に戻ろうと身を翻した。
「セラ……?」
そこには、エレナお母さんの実の娘。私と姉妹のように育ってきたセラが立っていた。
炎の背に、影だけの存在のように。
火は彼女の顔を赤く染め、その虚ろな瞳を映し出していた。
「セラ! 危ないから、早く避難して……! 人を呼んできて!」
煙であまり声を出せずに咳き込む。
声が届いていないのか――!
セラは微動だにせずに炎を見つめるだけだった。
「……いらない。……だって……ころした……のせい」
微かに聞こえるセラの声。
全部は聞き取れない。
だけれど。
――それは。その意味は……。
「ルミア!早く、 この時期は延焼しやすい。早く人を呼んできて消火するぞ。このままだと大惨事だ!」
いつの間にか、幼馴染のキアンが私の腕を引っ張っていた。
――そうだ。
見間違いだったかもしれない。
そんな事よりも早く消さないと。
無くなってしまう。全てが灰になってしまう。
何も残さずに消えてしまう。
それ以上に、
もっと大切なものまで失ってしまうかもしれない。
「うん、私は家から桶を持って消火してる。キアンの方が足が速いから、お願い……!」
「ああ、すぐに呼んでくる! お前も無茶な事は絶対にするな!」
――本当に見間違いだったのか。
セラの姿はそこに無かった。
でも、そんな事は今は考えずに動くんだ。走るんだ。
諦めない。まだ立てる。
早く動かないと後悔じゃ済まない。
『うちの村にはお医者様が居ないからね。ここが村の薬箱だよ』
エレナお母さんの声が聞こえた気がした。
彼女の優しい声が耳に蘇る。
――そう。守る。絶対に……!
誰かを助ける、誰かを助けられる可能性が消えてしまう。
これから、本格的な冬が始まる。もう収穫する時期だったのに……。
三日後に収穫して、冬に備えるはずだった。
(エレナお母さん、ここを守って……。皆を守って……)
ここに居ない母に祈る。祈って願って、炎から背を向ける。
待ってて、すぐに元通りになるはず。
私は必死で走る。
守る。エレナお母さんの気持ちを。
絶対に守るんだ……!
だってこれが、私の生きる意味なんだから。
「また立ち上がってみせる、私は大丈夫……。 皆を助けられるようになるって誓ったんだから……!」
赤く舐めるようにこちらに手を伸ばす炎。
――バシャッ!
それに向かって思い切り水をかけた。
今日も、書き終えました。
また、明日も、少しずつ書いていきます。
次は彼女の子供時代のお話になります。




