〈7話〉寝休日
今日はなゆた宅で勉強会をすることに。
ーーピンポーン
インターフォンを押すが、反応がない。
何回も押すのは失礼かと思い、しばらく様子を見ることに。
ーーティロン
スマホの通知音が鳴り確認すると、なゆたからのライーンだった。
ーーついた?
ーーついたよ
ーー上がっていいよー、誰もいないから
ーーはいー
「お邪魔しまーす」
不用心にも玄関の鍵は開けてあった。
鍵を閉め、真っ直ぐなゆたの部屋へ向かう。
ーーガチャ
「寒っ!て……何してんの?」
布団にくるまり、ミノムシみたいになっているなゆた。
エアコンは、身震いするくらい効いていた。
「やっほーいらっしゃい」
「もしかして寝てた?」
「いまさっき起きた」
「だろうと思った」
「自分家が集合場所の特権だよね。時間になるまでダラダラできる」
「なゆたはダラダラしすぎ。そんなに寒かったらエアコンの温度あげればいいのに」
「わかってないなぁそねこは」
(その言葉がよく言えたなっ)
「クーラーの効いた部屋で布団かぶって寝るのが、最高に気持ちいいんだよ」
「異議なし、それは同感だけど…なぜ今?」
「いやぁ、本当は今日早起きしたんだよ、待ってる間時間あるから漫画でも読むかと思って布団でゴロゴロしてたらさー」
「布団とエアコンの最高のマッチに気づいてしまって抜け出せなくなった末に寝落ちしたか」
「そゆこと」
幸せそうな顔で今だに布団にくるまったままのなゆた。
「ほらー、勉強するぞー」
「もうちょっとだけ」
「先に始めるよー」
「うい」
隣で寝ている人がいると、逆に集中力が働くのは何故だろう。
最初は得意な数学に手をつけて正解だった。
集中力に勢いがつき、あっという間に終わってしまった。
次に苦手な英語に手をつけたのは失敗だった。
微塵も内容が頭に入ってこない。
「うーん…」
(完全に行き詰まった。そういえばなゆたは?)
なんともまぁ気持ちよさそうに、三度寝をかましていた。
その寝顔に、段々吸い寄せられる。
(……ちょっとだけ)
布団を枕替わりに、横になる。
ついでに薄手の布団を拝借して…
(はあ…気持ちい)
クーラーで冷えた体を、優しい温かさで包み込んだ。
(これは寝れる…)
目を閉じたのもつかの間、そのまま寝落ちした。
*
「なゆた〜?」
午後3時、なゆたのお母さんが帰ってきた。ドアを開けたお母さんが見たのは、爆睡する二人。
「あらまぁ」
思わず笑みをこぼす。
「やだ、この部屋寒いわね」
エアコンの温度を5°上げた。
*
「やば、寝てた…」
「私も…今何時ー?」
二人ほぼ同時に目覚める。
寝ぼけるなゆたは、あくびをしながら時計を見た。
その瞬間、吸った息が止まる。
「4時」
「早くね?」
「寝休日してしまった」
*
寝起きの喉の乾きを潤すため、キッチンに向かった。
「あれ?母さんおかえり」
「なゆた〜おはよう」
「(げっ)」
お母さんの第一声に、肩がびくつく二人。
さっきまで寝ていたのが、バレてる気がした。
「お友達も来てるのよね。いらっしゃい!」
「あっ、お邪魔してます」
ぺこりと丁寧に挨拶をする。
「ケーキあるけど食べる?」
「食べるー!」
「お友達もどうぞ!」
「あ、ありがとうございます!」
帰り道に寄ったケーキ屋さんの新作ケーキ。
特売中だったので、ついつい沢山買ってしまったらしい。
「美味し〜」
「最高だ…」
ケーキを堪能し、何だかんだ18時を回ろうとしていた。
「一日寝て過ごすって…なんか凄くもったいない感じがするよね」
「わかるよ」
「でもさ、最高に気持ちいよね」
「わかる、わかるよ」
「喪失感と罪悪感を犠牲に得られる快感は格別だね」
「間違いない」
なゆたの意見にひたすら共感してしまう私。
課題のことなど、すっかり忘れていた。
「そういえば、課題は終わったのー?」
お母さんの言葉に固まる二人。
新作ケーキはとびきり甘く、ほんのり苦かった。