〈3.5話〉節水
「ああ、お腹いっぱい。美味しかった〜!」
「食べた、食べた!あ、私洗い物するよ」
なゆたはせっせと手際よく机の上を片付けていた。その様子を見て私は、洗い物を勝手でた。
「助かるよ」
「さてと」
ーーザバーーー!
水を勢いよく出し、腕まくりした瞬間。
「……!」
背後から、なゆたの視線が突き刺さる。
肩越しに覗き込み、彼女は小刻みに震えていた。
「ど、どうしたの?」
ーーキュッ
水を止める音が、妙に重々しく響いた。
「……代わるよ」
「あ、ありがとう」
恐る恐る洗い場を代わる。
「お客さんはゆっくりしてて」
そう言ってなゆたは洗い物を始めた。
何が起こったのか気になった私は、なゆたの肩越しに洗い場を眺めた。
「どしたの?」
「何があったか気になって……」
「ああ、水」
「水?」
「うん、節水にうるさいんだよね私」
ーージョーー
「言われてみれば、水の量少ないないね」
「これくらいがちょうどいいんだよ」
ペットボトルの口より細い水流で、皿を洗っていく。
「洗い物の時ってつい水を出しすぎるけど、大半は無駄なんだ」
「へぇーそうなの?」
「ただの持論」
「持論かい」
「でも実際この位の水の量で事足りるんだよね」
全く無駄がない動きについつい見入ってしまう。
彼女はボウルに水をため、汚れの少ない皿から順に洗っていく。
「蛇口の真下にスポンジを置きながら流せば、ほら簡単」
「おおー!」
スポンジを蛇口の下で受け、絞った水でシンクまで一緒に磨き上げる徹底ぶり。
一方私は、完全に背後霊になっていた。
「油汚れは浸け置きして……ほら、終わり」
「家政婦ですか?」
「ニート」
サッと撫でるだけで簡単に汚れが落ちていった。
「ほんとだ、なゆたって器用なんだね〜!」
反対の方にもう一人背後霊がついた。
あっという間に、洗い物もキッチンもピカピカになった。
「ちょっと、手洗わせて〜!」
「どうぞ」
(かたっ……!)
蛇口はガチガチに閉まっていた。