〈3話〉タコパ
今日はなゆたの家でタコパ。
*
きっかけは、なゆたの一言だった。
「タコ食べたい」
「タコ美味しいよね」
「なんかこうさ、無性に何かを食べたくなる時ってない!?ラーメンとか……肉とか……」
「あるある」
「タコパしない?」
たった30秒の会話だった。
*
そう言う私は、炭水化物が食べたい気分だった。見事に利害が一致し、断る理由もなかった。
「そねこ〜、帰ろ〜」
「あ、こめこ」
「わあーー!そねこが私意外の人と喋ってるの珍しい〜!早速お友達!?」
「聞こえてる、聞こえてる」
こめこは私の親友。テンションが高くて、とびきり声がでかい。
「始めして」
ぺこりと頭を下げるなゆた。
「わぁーーかわいい〜!ちっちゃい〜!」
こめこはついでに、遠慮を知らない。
初対面のなゆたに急接近。こういう時、陽キャ女子の距離感の近さは計り知れない。
「なになに〜?なんの話ししてたの?」
「タコパしないかって」
「えっ、タコパ!うちもした〜い!ねぇねぇいつする!」
こめこはすっかり、参加人数に加わっていた。
トントン拍子に話が進み、早速今週の土曜に決まった。場所は、言い出しっぺのなゆたの家だ。
「あっそうだ!自分が好きな具、一品持ち寄りってどう?」
「そんな、急に」
「考えるだけでテンション上がってきた!楽しみだな〜」
踊るように、こめこは先行する。足取りが軽やかすぎて、宙を舞ってるみたいだ。
「聞いてないし……」
「なんかこう……真逆だね」
なゆたは呟いた。
「真逆というか、生きてる次元が違うって感じする」
当然私も自覚があった。
なゆたと私は、影を踏みながら並んで歩く。
*
そんなこんなで土曜日がやってきた。
「持ってきた具、見せ合いっこしよ〜!」
なゆたと私は流れに身を任せることにした。
「せーのっ、じゃーーん!」
ーーバサバサ
「……え?」
具を広げた瞬間、視線が一点に集中した。
「こ、こめこ。それって……」
「グミだよ!私グミ超大好きなんだ〜!」
「それは知ってるけど……みてよなゆたの顔」
隣から溢れ出る、絶望のオーラ。
なゆたは開いた口が塞がらず、〈真実の口〉そっくりな顔をしていた。
「だ、大丈夫だよ!グミって色んな味があるでしょ?絶対合うと思うんだー!」
幸先が不安だ。
「そねこは何持ってきたの?」
「米」
「「米!?」」
二人のツッコミが被る。
「なんか無性に、炭水化物が食べたくって」
「ラーメン×米、お好み焼き×米みたいな!?炭水化物を炭水化物で食べるあれじゃん!」
勢いよくまくしたてるなゆた。空きっぱなしの口は、今にも顎が外れそうだ。
「うちも食べたことあるよ!炭水化物×炭水化物」
「そりゃ私もあるけど、たこ焼きだよ?炭水化物の過剰摂取だよ!?」
「そうかもしれないけど、不味くはならないと思うんだ」
一瞬なゆたと私の視線がグミに行ったのは不可抗力だ。
「タコライスとかもあるし〜、案外良いかもよー!」
「それタコ入ってないよ…」
なゆたの突っ込みはキレキレだ。タコパ開始前から、不安は増すばかり。
「じゃあ最後なゆた」
「よくこの流れで私にパスできたな」
机に置かれた、見慣れた袋。
「普通だ」
「結構普通だね」
なゆたが持ってきたのは、チーズとソーセージと紅しょうがだった。
「こういうのがなんだかんだ一番いいんだよ」
「うちも沢山持ってくればよかった〜」
「よし、準備始めるか」
「私液作るよー」
「助かる」
こめこの独り言は触れずに早速タコパが始まった。
*
「こ、こめこちゃんストップ!」
慌てた様子で声をはりあげるなゆた。
見ると、袋ごとグミをぶちまけようとしていた。
「一個ずつにしよ!」
「ええー、豪快な方がいいじゃん〜」
「そねこも手伝って!」
「一気に食べたら、楽しみが無くなるよ」
「うーん、それもそうか」
なゆたと私は胸をなでおろし、親指を立てあった。
さすが私、こめこのことはよく知っている。
「じゃあまずは、そねこのからね!」
「米だ」
「米だね」
「米だったね」
感想、全員一致でただの米。
「次は……」
プレートの端で、一際異彩を放つ存在。溶けたグミは、どす黒い泡を出していた。
「いただきまーす!」
躊躇なく、勢いよく口にほおり込むこめこ。
暫くモグモグと口を動かす。噛んだままなかなか喋らない。
私となゆたは顔を見合せ、首を傾げる。
未だ反応のないこめこ。どんな味がするのか興味が勝ち、二人同時に口に入れた。
ーーモグモグ
「なんか…スイーツとご飯は一緒に食べちゃダメだね」
最初に口を開いたのは、最初に食べ始めたこめこだった。
「うん…」
「なんか…想像してた以上に…」
「美味しくないね」
「うん…」
「一個ずつにしといて良かった」
「「そうだね」」
自称グミ大好きなこめこでさえ、この反応。
感想、全員一致で不味い。
「ん〜!なんだかんだやっぱりこれが一番だね!」
「美味しい」
「一層美味しく感じるよ」
三人はチーズとソーセージ、紅しょうが入りのたこ焼きを沢山食べた。
「見て見てー!すっごい伸びる!」
こめこはたこ焼きの半分を噛み、中からビョーンと伸びるチーズを見せた。
「上に乗せても美味しいよ」
やっぱりチーズは、女心をくすぐる見た目をしている。
各々自分の好きな食べ方で楽しんだ。
こめこも先程とは打って変わって満面の笑みだ。
「お米もそのまま焼いても美味しいね〜!」
「焼きおにぎりみたいで美味しい」
「もういっそ焼きおにぎりにしちゃお」
完全敗北したのはグミだけだったようだ。
三人の頭から、グミのことはもう消えていた。