表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

〈3話〉タコパ



今日はなゆたの家でタコパ。



きっかけは、なゆたの一言だった。


「タコ食べたい」

「タコ美味しいよね」

「なんかこうさ、無性に何かを食べたくなる時ってない!?ラーメンとか……肉とか……」

「あるある」

「タコパしない?」


たった30秒の会話だった。



そう言う私は、炭水化物が食べたい気分だった。見事に利害が一致し、断る理由もなかった。


「そねこ〜、帰ろ〜」

「あ、こめこ」

「わあーー!そねこが私意外の人と喋ってるの珍しい〜!早速お友達!?」

「聞こえてる、聞こえてる」


こめこは私の親友。テンションが高くて、とびきり声がでかい。


「始めして」


ぺこりと頭を下げるなゆた。


「わぁーーかわいい〜!ちっちゃい〜!」


こめこはついでに、遠慮を知らない。

初対面のなゆたに急接近。こういう時、陽キャ女子の距離感の近さは計り知れない。


「なになに〜?なんの話ししてたの?」

「タコパしないかって」

「えっ、タコパ!うちもした〜い!ねぇねぇいつする!」


こめこはすっかり、参加人数に加わっていた。


トントン拍子に話が進み、早速今週の土曜に決まった。場所は、言い出しっぺのなゆたの家だ。


「あっそうだ!自分が好きな具、一品持ち寄りってどう?」

「そんな、急に」

「考えるだけでテンション上がってきた!楽しみだな〜」


踊るように、こめこは先行する。足取りが軽やかすぎて、宙を舞ってるみたいだ。


「聞いてないし……」

「なんかこう……真逆だね」


なゆたは呟いた。


「真逆というか、生きてる次元が違うって感じする」


当然私も自覚があった。


なゆたと私は、影を踏みながら並んで歩く。



そんなこんなで土曜日がやってきた。


「持ってきた具、見せ合いっこしよ〜!」


なゆたと私は流れに身を任せることにした。


「せーのっ、じゃーーん!」


ーーバサバサ


「……え?」


具を広げた瞬間、視線が一点に集中した。


「こ、こめこ。それって……」

「グミだよ!私グミ超大好きなんだ〜!」

「それは知ってるけど……みてよなゆたの顔」


隣から溢れ出る、絶望のオーラ。

なゆたは開いた口が塞がらず、〈真実の口〉そっくりな顔をしていた。


「だ、大丈夫だよ!グミって色んな味があるでしょ?絶対合うと思うんだー!」


幸先が不安だ。


「そねこは何持ってきたの?」


「米」

「「米!?」」


二人のツッコミが被る。


「なんか無性に、炭水化物が食べたくって」

「ラーメン×米、お好み焼き×米みたいな!?炭水化物を炭水化物で食べるあれじゃん!」


勢いよくまくしたてるなゆた。空きっぱなしの口は、今にも顎が外れそうだ。


「うちも食べたことあるよ!炭水化物×炭水化物」

「そりゃ私もあるけど、たこ焼きだよ?炭水化物の過剰摂取だよ!?」

「そうかもしれないけど、不味くはならないと思うんだ」


一瞬なゆたと私の視線がグミに行ったのは不可抗力だ。


「タコライスとかもあるし〜、案外良いかもよー!」

「それタコ入ってないよ…」


なゆたの突っ込みはキレキレだ。タコパ開始前から、不安は増すばかり。


「じゃあ最後なゆた」

「よくこの流れで私にパスできたな」


机に置かれた、見慣れた袋。


「普通だ」

「結構普通だね」


なゆたが持ってきたのは、チーズとソーセージと紅しょうがだった。


「こういうのがなんだかんだ一番いいんだよ」


「うちも沢山持ってくればよかった〜」


「よし、準備始めるか」

「私液作るよー」

「助かる」


こめこの独り言は触れずに早速タコパが始まった。



「こ、こめこちゃんストップ!」


慌てた様子で声をはりあげるなゆた。

見ると、袋ごとグミをぶちまけようとしていた。


「一個ずつにしよ!」

「ええー、豪快な方がいいじゃん〜」

「そねこも手伝って!」

「一気に食べたら、楽しみが無くなるよ」

「うーん、それもそうか」


なゆたと私は胸をなでおろし、親指を立てあった。

さすが私、こめこのことはよく知っている。


「じゃあまずは、そねこのからね!」


「米だ」

「米だね」

「米だったね」


感想、全員一致でただの米。


「次は……」


プレートの端で、一際異彩を放つ存在。溶けたグミは、どす黒い泡を出していた。


「いただきまーす!」


躊躇なく、勢いよく口にほおり込むこめこ。

暫くモグモグと口を動かす。噛んだままなかなか喋らない。


私となゆたは顔を見合せ、首を傾げる。

未だ反応のないこめこ。どんな味がするのか興味が勝ち、二人同時に口に入れた。


ーーモグモグ


「なんか…スイーツとご飯は一緒に食べちゃダメだね」


最初に口を開いたのは、最初に食べ始めたこめこだった。


「うん…」

「なんか…想像してた以上に…」

「美味しくないね」

「うん…」

「一個ずつにしといて良かった」

「「そうだね」」


自称グミ大好きなこめこでさえ、この反応。


感想、全員一致で不味い。


「ん〜!なんだかんだやっぱりこれが一番だね!」

「美味しい」

「一層美味しく感じるよ」


三人はチーズとソーセージ、紅しょうが入りのたこ焼きを沢山食べた。


「見て見てー!すっごい伸びる!」


こめこはたこ焼きの半分を噛み、中からビョーンと伸びるチーズを見せた。


「上に乗せても美味しいよ」


やっぱりチーズは、女心をくすぐる見た目をしている。


各々自分の好きな食べ方で楽しんだ。

こめこも先程とは打って変わって満面の笑みだ。


「お米もそのまま焼いても美味しいね〜!」

「焼きおにぎりみたいで美味しい」

「もういっそ焼きおにぎりにしちゃお」


完全敗北したのはグミだけだったようだ。

三人の頭から、グミのことはもう消えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ