〈1話〉3秒ルール
私の名前は「そねこ」。
ただ今、学校が終わって絶賛空腹中。もうヘトヘト。
「あぁーーつかれたーー。お腹すいて動けないよ……。飴ちゃん食べよ……ん?か、固っ…あ!!」
ーーパチン!
袋を開けようとした瞬間、丸い飴玉が勢いよく飛び出した。
「ああ、もったいない」
床に無惨に転がる飴玉。
この袋、両側にギザギザの切れ込みがあって便利なんだけど、時々裏切ってくる。丸い玉がピッタリ詰まってるから、力任せに開けるとこうなるのだ。どこに飛ぶかなんて、運次第。
「……まぁ、もう一個あるし」
袋を探ると、ちゃんと残っていた。今度の袋はおとなしく開いてくれる。私は新しい飴を口に放り込んだ。
「落としたよ」
後ろから声がして振り返る。そこには、ロングヘアの女の子が立っていた。見下ろすくらい小柄だけど、同じ制服を着ているから、きっと同じ学校の生徒だろう。
「それもう落ちちゃったから食べれないよ〜」
「じゃあ、貰っていい?」
「え、あ、うん…いいよ(?)」
(えっ、何するの!?)
彼女は飴を持ったまま、スタスタと歩いていく。その様子を、視線で追う。
(あっ、水道……まさかーー)
ーーザーーー
(洗った……!)
ーーパクッ
(た、食べたーー!?)
空いた口が塞がらない。
「ね、ねぇ。それ落ちたやつだよ??」
「3秒ルールって知ってる?」
「知ってるけど…もう3秒以上たってた思うよ…?」
「ううん」
何を根拠にか、首を横に振る彼女。
「落ちたのを見て、一歩踏み出したのに1秒、摘むのに1秒、拾い上げるのに1秒、ほら3秒でしょ」
(えぇ……)
「洗ったから大丈夫!」
安心してと言わんばかりのドヤり具合だ。
「でも、知らない人が落としたのだけど大丈夫?」
「知ってるよ、だって同じクラスだもん」
「えっ、うそ……気まずっ。席どこ?」
「君の後」
「まじ?」
「まじ」
「気まず」
「大丈夫。よくある事なんだよ。小さくて視界に入らないんだよね」
「な、なんかごめん」
ーーグーー
彼女の腹の虫が鳴いた。
「お腹すいてるの」
「(コクッ)」
飴を舐めながら、口をモゴモゴさせながら、小さい頭を縦に振る。
「飴食べたいなーと思ってたらさ、転がってきたんだよね。だって、あんまり喋ったことない人にいきなり”飴ちょうだい”って言うのもなんか変じゃん?」
「まぁ……確かに(?)」
なんだろう。妙に納得してしまった自分がいる。
「落ちろ〜落ちろ〜って念じてたら、本当に転がってきたんだ」
「じゃあ、絶対あんたのせいじゃん!袋から出ようとするの抗ってたの!」
「違うよ」
「違うの?」
「不可抗力だよ」
ーーグーー
また腹の虫が鳴いた。これも彼女の腹からだ。
「飴あるけど……いる?」
「(こくこくこくこく)」
ちょっと可愛い。飴を見て目を輝かせる様子は、まるで餌を前にした子犬だ。
これが私と彼女の出会いだった。