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流出炎上予告

 呪層現実から戻った俺たちは特に命の危険に晒されることなく、普通にさっきまでいたファミレスに戻ってきていた。

 すると店員さんが俺たちの注文した料理を持ってきて、何事もなかったのように厨房へと帰っていく。

 そんな中、アツアツのフライドポテトを見て、東宮は不思議そうにあたりをキョロキョロと見まわした。


「現実での時間はほとんど経ってないんだね」

「どっと疲れたけどね」


 俺は思わず身体をテーブルに投げ出したくなるほどの疲れが出てきて、たまらず長い息を吐いた。

 全力で敵と戦った後、気を張りながら、街の中を隠れて動き回ったのだから疲れて当然ではあるのだが、現実世界にも疲れが反映されるのは日常生活に支障をきたしそうだ。


「とはいえ、今から証拠集めをしないとだよな。手がかりのリストはこっちの世界に持ち帰れたの?」

「うん、ちゃんと持ち帰れてる」


 真見はそういうと机の上に女性リストの書かれた紙を置いた。

 とりあえず10人名前があげられていて、それぞれの被害が書かれている。


「まずはリストの信ぴょう性の確認から」


 真見にそう言われて、俺もスマホを出して名前を検索しようとする。

 すると、真見と東宮が顔を赤くしながら俺に手を伸ばし、待ったをかけた。


「「誠司君はダメ!」」

「何で!?」


 俺の戸惑いに真見と東宮は目と目で何か会話したかと思うと、リストを隠してそっぽを向いた。

 そして、俺に聞こえるか聞こえないかのギリギリな声でこういった。


「……えっちなのはダメ」


 二人の言葉でようやく俺は、何で自分だけ検索を止められたかを理解した。

 確かにリストの中にはグラビアアイドルや、セクシーアイドルとして売ったと書かれている。

 検索して知人のエロ画像を見られるのは良い気がしないだろう。


「ご、ごめん。デリカシーがなかったな。黒子、俺たち男子組は検索結果が出るまで待ってようか」

「む? 心配無用だ誠司殿。既に拙者がリストの信ぴょう性を確認したぞ。確かに成人向けのものもあった」

「お前も男だろ!?」

「いや、拙者犬ゆえ、人間には発情せぬ。それに――いやこれは言うのも野暮か」


 ぐうの音もでない正論をぶつけられ俺、は何も反論ができず口をパクパクさせるしかなかった。

 犬って言っても犬には思えないほど人間臭いんだけどさ。

 何か大切な仲間を失ったような気がするのは何でだろう。

 そんな俺の気持ちを知る由もないだろう黒子は、そのまま調査結果を報告し始める。


「さて、では拙者の調査結果だが、リストの信ぴょう性はかなり高い。とはいえ、実際に金銭の授受があったかまでは分からぬが、経歴と販売歴は一致する」

「黒子、リストの人間関係で繋がる人はいる?」

「小此木流星、茜殿とリストの女性たちの出演記録と撮影スタッフすべてを洗い出した結果、繋がるのはその名前だった」


 小此木、それって確か東宮が言っていたプロデューサーの名前だったはず。

 確か番組の企画を作って、台本の指示を出していた人間だ。

 それなら呪層空間に出てきた呪魔の設定も筋が通る。


「茜殿、心苦しいことを言わねばならぬが、やはり呪いの主は茜殿の関係者である可能性が高い」


 黒子が申し訳なさそうに頭を下げる。

 こんな調査をしなければ、気付かないまま芸能界にいられたかもしれない。

 しかも、この事件の真相が明るみに出たら、被害にあった大勢の女性の惨状が世に広まってしまう。

 それは彼女たちを傷つけることにも繋がるかもしれない。


「それでも私はやるよ。たとえ自分が恨みを買って芸能界にいられなくなったとしても、小此木の作った下らない、くそみたいな台本を燃やし尽くして、あいつに罰が当たるように」

「すまない茜殿。では、お知り合いの被害状況の裏どりをお願いしたい」

「任せて。小此木に言い逃れされない徹底的な証言を手に入れるから」


 東宮は微笑んでいるものの完全にぶち切れていた。

 真見ですら若干身を引くほどの明確な怒りが、微笑みの仮面で覆いかぶせられているのが逆に怖いんだ。すごくよく分かる。

 とはいえ、呪いの主は分かった。これで後は予告状を出して呪いの主を倒せば東宮にかけられた呪いはとける。

 ならば、今夜にでも予告状を用意して、明日にでも呪いを払おう。

 そう提案しようとした矢先だった。

 東宮の携帯に着信があったのだ。


「小此木だ」


 このタイミングで!?

 俺だけでなく、真見もさすがに驚いた顔している。きっと俺と同じことを思っただろう。

 だが、東宮は涼しい顔をして、上機嫌な声音で電話に出てしまう。

 さすが女優。さっきまでの怒気が完全に消えるほどの恐ろしい演技力だ、


「お疲れ様です。はい、あー、ちょっと炎上しちゃいましたね。すみません、ストレスが抑えきれなくて、あ、はい、面談ですか? 今ちょっと友達といるのですが」


 完全に仕事モードとなった東宮の邪魔をしないよう、俺たちは声を押し殺して待つこと数分。

 東宮は電話を切った。


「みんな明日学校休める?」


 そして、唐突に切り出された。その問いかけに俺たちが困惑していると、東宮はさらにとでもないことを言い出した。


「明日小此木が、話があるから所属事務所に来るって。一人だと怖いからみんな一緒にいてもらっていい?」

「何かされるかもってことだよね。役に立つか分からないけどいける」


 俺は頷いて同意した。

 小此木は東宮を商品として売ろうとしている男だ。

 腕っぷしには自信ないけど、友達がいる中で変なことはできないだろう。 

 少しでも東宮の力になれるといいけど。


「私が何しでかすか分からないかも? って方かな。ナイフで刺しそうになったら止めてね」

「そっち!?」

「ふふ、冗談だよ。天原君は良い反応するね。でも、万が一の場合はお願い。こう見えて本当に頭に血が上ってるからビンタくらいしても不思議じゃないかも」


 その状態で俺をからかうのは、もはやただの八つ当たりでは!?

 とはいえ、どちらにせよ東宮を小此木と一対一で会わせるのは危険だ。

 同じように判断した真見も学校を休み、一緒に向かうことを決めた。


「拙者は茜殿のスマホに待機しつつ、明日の面談の場で予告チャンネルをアップロードできるよう用意を進めておく。今日は呪層現実に二度も入ったのだ。真見殿と誠司殿は明日に備えてゆっくり休むべきであろう」

「ありがとう黒子、東宮さんを頼むね。誠司君もすごく疲れた顔してるし、ちゃんと休むんだよ?」


 言われなくとも夜更かしする体力はなさそうだ。

 明日に備えて俺たちはお腹を満たすと、それぞれ帰ることとなった。


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