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七議題目 入学式は必要か?

「どうだったんだい? 『入学式』は」

 四月最初の月曜日、つまりは今日が高校生活最初の日、と一般的にはなっている。

 退屈だった入学式と担任の話を終えて半ば走るように部室に駆け込めば、薫さんにそう言われた。

「…………何も面白いことはありませんよ」

「……友達が出来そうになかった。または既に部活仲間で輪が出来ていてどうにもなりそうもなかった」

「……! や、やめてください」

 誤魔化そうとしたのに、見事に心中を暴かれてつい声が大きくなってしまった。

「かわいそうに。まぁ、大抵はそうだろうけどね。こんな狂った学校だ。むしろ『それ』を目的としているのかもしれないよ?」

 薫さんは言葉では憐れむ癖に、喋り方に哀れみは一切含まれていなかった。

「……貴女は」

「ん?」

「貴女は入学式、どうだったんですか?」

「……あぁ」

 自分ばっかりバカにされてる気がして、聞き返せば薫さんは片眉を上げた。

「ワタシはね、こう見えて一年の時は演劇部に入っていたからね。キミも知っているだろう、演劇部の知名度くらいは」

「…………チッ」

 知っているなんて話ではない。部活動パンフレットでも大々的に描かれていたし、演劇部に入っているというだけで箔がつく、なんてことを隣の席のやつが前の席のやつに向かって言ってるのも聞いた。

 全国大会に毎年出るほどの実力で、毎年では無いが優勝経験も何回もあるという、百は超えそうな数の部活動の中で一番目立つ部活である、らしい。

 自分とは全く違うスタートを切った薫さんのことが気に食わなくて、つい舌打ちを鳴らしてしまった。

「フフフ。だがね、そんなワタシでも入学式には退屈さしか感じない。校長の話も生活指導の話も、さして代わり映えのしない定型文の羅列。それを聞くだけに十数分取られるのはハッキリ言って時間の無駄だね」

「……それが今回の議題ですか?」

「ああ。『入学式は必要か?』だな。キミはどう思うんだい、ミオくん」

「……儀式的なものとしてやった方がいい、という意見はたしかに納得できる面もありますが、今の形態としてはやらなくていいのでは。話を聞くだけなら他でもできるので」

「たしかにね」

 薫さんはそう言って窓の外を見た。

 この教室からだと校門が見える。『入学式』と書かれた看板と横に置いてあるフラワースタンドの間で写真を撮ってるヒトが目に移った。

「……フラワースタンドは綺麗だ。あれは入学式か卒業式でしか見れないからね」

「………………じゃあ、それ以外の点を排除した入学式でも開催しましょう」

「……一つ、デメリットを上げるとね。入学式をやらないと初日から授業かもしれない」

「入学式って一週間くらいあっても良くないですか?」

「手のひらがクルクルだ」

 薫さんはそう言って微笑んだ。

 今日から始まったのだ、高校生活は。友人は全く出来そうになく、クラスに馴染める気もしないけれど、部室の空気だけは心地が良かった。

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