三議題目『おはようは何時までか?』
「おはよう」
「もう、昼です」
部活の時間は大体放課後に割り当てられていることが多い。たまに朝練をしている部活は存在するが、それは大会なんかに出ている運動部か、吹奏楽部だけであり、多くの文化部は放課後の活動のみをメインとしている。
春休みである今の時期は放課後というくくりは存在せず、一応便宜上昼くらいからやれば見てくれがいい、という薫さんの都合により昼からになっていた。
「面白いことを言うね、キミは」
「特に言ったつもりはありません。もう正午を過ぎているんです。おはようの時間ではないでしょう」
「フフ。それじゃあ今日の議題は『おはようは何時までなら許されるか』にでもしようか」
薫さんは笑みを作ってそう言った。
「よろしくお願いします……」
昨日に比べればわかりやすい議題で助かった、と息をつく。
「さて、キミの考えは?」
「僕にとっては『おはよう』は朝の挨拶なので……そうですね、十時くらいまででしょうか。そこら辺からお店とかの挨拶もこんにちはに変わりますし」
「……なるほどね」
薫さんの笑みは昨日より少々嬉しそうで、誰かと議論がちゃんと出来そうで嬉しいのかもしれなかった。
「ワタシもその意見には概ね賛成だ。十時というのはギリギリ朝として許容できるが『朝の十一時に起きたんだ』なんてエピソードを話されると些か疑問を感じてしまう。それは十一時が、正午の一時間前という非常に昼に近い時間帯に感じるからであろう」
だがしかし、なんて言いながら薫さんは不敵に微笑んだ。
「ここで世間一般の常識を一つひけらかすのだが、実は仕事ではどんな時間でも出勤した時に『おはようございます』という場合がある、というものだ」
「……お疲れ様です、じゃないんですか?」
「そうだね。その場合もある。だがね『おはようございます』の割合も非常に高い。もちろんこれを人類全員に当てはめることはできなく時間帯の議論としては難しいがそれはそれとして覚えておきたい常識であるよ」
薫さんは微笑んでそう言った。
「…………なるほど」
「フフ、キミはいつもその返事をするね。口癖かい?」
「……なるほど、が口癖なのは変じゃないですか? 貴女といるときだけですよ」
そう返すと、薫さんは少々驚いた顔をした。
「…………口説き文句みたいだね」
「や、やめてください」
自分でも一瞬よぎったそれをちゃんと言葉にされると些か恥ずかしく、目線をそらしてしまった。なんだか意識してるみたいで逆効果な気はしたが。
「……可愛いね、キミは。ワタシもキミといると楽しいよ」
「そんなことは言ってません」
意地を張っているみたいな声が出た。