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二議題目『空に叫ぶとはどういうことか?』

 良く考えれば、なんて言ってしまうとアホ丸出しだが、世間一般で見ればまだ入学式には程遠いらしい。

 かくいう僕のこれから通う学校もまだ入学式というものは開催しておらず、『入学式前に交流を深めよう』だかなんだかの影響で部活に所属させられてるに過ぎない。

 部活の所属は決して絶対というわけではないが、入学式までは必ず所属しなきゃいけないらしい。ちなみにそこそこ大きい学校なので、部活は全部で百くらいあるとか聞いた。

「そんな中でよりによって議論部を選んでしまったキミは今どんな気持ちだい?」

「べつに……後悔は、してません」

 へぇ、なんて呟きながら眉を上げた薫さんはとても悪い顔をしているように見える。人相が悪い人間なのかもしれない。

「何かとても失礼なことを考えていないかい、キミは」

「……まさか。それで今日は何を議論するんですか」

「ふふ、そうだね……。じゃあ今日は『空』について、なんてのはどうだい」

「…………空」

 もっと違うものだと思っていた、なんて思ったけど、じゃあ何を想像してたかと言われると答えづらい。

「空の、何について議論するんですか……」

「何がいいかい? 空はどこまで続いているのか、青い空として見れるのはどこまでなのか、どこからが空と称せるのか……なんでもいいよ」

 薫さんは窓を開けながらそう言った。

「…………」

 議論の題材をまさか決められるとは思ってなかった僕は黙ってしまう。難しい。議論なんてさしてやったことなどないのだから。

 眉をひそめてどうにか頭をフル回転させていると、ふいに薫さんは窓の方を向いた。何をするんだ、と目が引かれた瞬間、薫さんは大きく息を吸い込んだ。

「やっほーーーーーー!!!!!!!」

 大きい声が放たれた。誰もいない、なんてはずはない。まだ春休み中とは言えども、部活は毎日開催中なのだから、人は外に大勢いる。

「な、なにして!」

 思わず動揺して大きい声を出してしまったら、薫さんはフッと笑って言った。

「なんだ、キミも大きい声が出せるじゃないか」

「そういう話じゃないでしょう。一体何をしてるんですか?」

「さて、今回の議題だ。『空に向かって叫ぶ』と『外に向かって叫ぶ』の違いは? キミはどう思うんだい?」

「え……」

 突然決まった議題も飲み込めぬまま問われ、僕は考えながら口を開いた。

「僕は…………空に向かって叫ぶのは屋上とか、外でしかできないと思います」

「ふむ。いいね、平凡だ」

「は…………」

 捻り出した意見とはいえ、平凡などと言われれば癪に障るのは当然だった。が、薫さんは全く気にせぬように目を伏せる。

「確かにそうだ。『空』という場所が付いている以上、上に向かって叫ぶか雲に向かって叫ぶかのどっちかだということは必然で、となると『外で』という記号が必然とつきそうだと考えることは可能だ」

 だがしかし、と薫さんはひとつ指を立てる。

「上に向かって叫ぶことはどこでだってできる。窓の外へと叫ぶ時に上の方を向けば『空に向かって叫んだ』と考えることは非常にたやすい。つまり、心の持ちようというのがワタシの意見になる」

「……なるほど」

 それは一般的な意見ではないようだったけれど、少しだけ物の見方が変わりそうだな、なんて思った。

「フフフ。それじゃあ議論にはならないよ。キミが反論してくれなくちゃ」

「あ……。…………でも、薫さんの意見に納得してしまって……」

「ふむ。じゃあ、今回の議論の結論は『心の持ちよう』でいいのかい?」

「はい」

「ふーん。つまらないね。次はいい議論になるように期待をしているよ」

 薫さんは些か不満そうだった。

「頑張ります……」

 僕は身体の前で両の拳をギュッと握った。

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