十二議題目 人は同じ景色を見れるのか?
ここの学校は大きい。三学年しかいないとは言えども超巨大マンモス校、と言っても過言では無いレベルの学校なので、校舎が至極高い。ついでに死ぬほど田舎だ。
田舎だというと非常に悪いようにしか聞こえないけれど、よく言うなれば景色がとても綺麗なのだ。開けているから、都会のようにビル群に視界が遮られることはない。どこまでものどかな風景が広がっている。
窓の外を見ながらふとそんなことを考えていたら、隣で一緒に眺めていた薫さんが口を開いた。
「……綺麗だね」
「はい」
相槌を打てば薫さんは満足気に微笑んで口を閉じてしまった。会話終了。
だがしかし、とふと脳内に浮かんだ一つの議題。試しに薫さんにぶつけてみることにした。
「……同じ景色を僕らは本当に見えていると思いますか?」
僕の言葉に薫さんは穏やかな表情からハッとした表情をした後にこちらを見た。
「……フフ。キミから議論を持ちかけられるとはね。いいよ、受けて立とうか」
そう言いながら窓から離れると薫さんは得意げに言った。
「ちなみにワタシは『見えてない』派だよ。景色には必ず見たことあるものや、感情が色眼鏡として映る。これは全員が同じものであるわけがないし、それらを通して見ない、という選択肢も取りづらい。だから、『見えてない』と思うよ」
「なるほど……」
いつもならそこで納得の意を唱えて終わりにしてしまうけれど、今日はちゃんと議論したいという気持ちで来たのだ。必ず返してやる、と口を開いた。
「でも、僕は『見えている』と思いますよ。いくら色眼鏡が映っていても、本質として見えているのは同じ場所です。鳥が視界を横切ればそれについての会話ができる。ベースとなるものは同じなので、幻覚が見えてない限りは同じ場所が見えているはずです」
「うむ、そうだね」
薫さんは至極嬉しそうに笑った。
「本質的に『見えている』かと、物理的に『見えている』か。ワタシたちの考えはそこの点が違うらしいね」
「そうですね」
「ということで今回の結論は『見えているけど見えていない』なんて、とんでもない哲学的言い回しになってしまったね」
「……確かに」
見えているけど見えていない……そんな言葉をどこかで聞いたことがある気がする。何だったか。
「シュレディンガーの猫、じゃないかい? 箱を開けるまで猫がいる状態といない状態が点在してる、的な」
「…………心、読まないでください」
そう返すと薫さんはフフッと笑った。
窓の外はヒラヒラと桜が舞っていた。




