十一議題目 友人は必要か?
「……キミはそこで何をしてるんだい?」
昨日の別れ方は僕が悪かったこともあり、部室に入るのを躊躇っていたら薫さんは本から顔を上げて言った。
「……いや、その…………」
「別に怒ってはいないよ。キミが反省の心があるならそれでいいじゃないか」
そう言われて一つ息をしてから部室に足を踏み入れた。
「……友達と一緒に帰らなくていいのかい?」
「…………彼も部活に入ってるんで……」
「じゃあ、部活が終わったら一緒に帰るのか」
薫さんの言葉は少しだけ棘がある。怒ってないなんて嘘なんじゃないか、なんて気持ちになってくる。
「……薫さんは、僕が友達を作っているのが嫌なんですか?」
「………………なんだい、その物言いは」
本をパタンと閉じた薫さんは冷ややかな瞳をこちらに向けた。
「まるでワタシがキミのことを好きみたいじゃないか」
「…………え?」
言われた言葉に心当たりがなくて、そう聞き返せば薫さんはため息をついた。
「今日の議題だ。『友達の存在意義とはなにか?』」
突然投げられたことに困惑しつつも、比較的わかりやすい言葉に僕は口を開いた。
「……学校という括りで言うなれば、グループやペア作成時に相手がいるというのが安心感に繋がるし、やはり会話するのも大事だと思うんで……」
「……で?」
「そうじゃなくとも、多くの人間が誰かと仲良いということが多いので、孤独で過ごすのに躊躇いを感じるとか…………」
「……単純だね」
薫さんはそう吐き捨てた。
「グループ作成やペア作成の円滑さを観点にするのはいいけどね、結局のところ誰かと組まなくては話にならない。嫌われていない限りは誰かと組めるのだから友人である必要はどこにもない。孤独で過ごすことに躊躇いがあるのはキミの特性だからね」
「……つまり、薫さんは友達がいないと」
「はぁ!?」
聞いていて思ったことを言えば薫さんは目を見開いて声を上げた。若干赤面しているのも相まって図星であることが伺えた。
「キミは、急に何を……!」
「焦るってことはそういう事なんじゃないですか?」
追い討ちをかければ薫さんはため息をついた。
「……キミがそんな子だとは思わなかったよ」
「僕は一人で部活してるのでなんとなく分かってはいましたけどね」
「……どこまでも意地悪だな、キミは」
薫さんはそう呟いて頬を軽く膨らませた。