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第五話 灰色の巨人【37番】との決着:校庭バトル②

前話の内容:灰色の巨人との戦い、圧倒的不利の中で未知の能力“落とし穴”が覚醒する。

バンッ! バンッ! バンッ!


灰色の巨人が放つ圧縮弾が、空気を裂きながら迫ってくる。俺が横に跳んで避けると、衝撃波が地面を抉った。敵の弾幕をかいくぐりながら、距離を詰めようとするが、ヤツは冷酷なリズムで圧縮弾を放ち続けてくる。


(──くそっ……!)


何発目だろう。すでに何度も直撃を受けている。もし普通の人間のままだったら、骨どころか臓器も砕けているだろう。でも痛みは──ない。


(いや……感じてないだけだ)


俺の身体は、もう“人間”じゃない。深い紺の外装に覆われた異形の肉体。それでも、限界はある。どこかで勝負をかけなきゃいけない。


俺は反撃らしい反撃ができていない。やられたい放題だ。だが、その中でなんとかヤツの動きを観察し続けていた。


肩の揺れ。そして、足の運び。


相手は、圧倒的に強い。まるでボールを投げるように、右手でも左手でも圧縮弾を放ってくる。


(……やっぱり、そうだ)


ヤツは投げる手と“逆の足”を半歩踏み出している。右手で撃つときは、左足を半歩前へ。投球フォームのように。圧縮弾を放つその裏で、繰り返される小さな“動きのパターン”。


(これが唯一の“入口”になる……!)


そして、もう一つ──いや、むしろこちらの方が決定打になるかもしれない。


(……あいつ、自分の“足元”を見ていない)


最初は違和感だった。でも、自分が巨大化してからわかった。


このサイズになると、足元の地面が視界に入らない。視線を下げるには、首ごと動かさなければいけない。

しかも視線を落とせば、そのぶん腕の射角が狂う。


ヤツは正確に俺を狙って撃ってくる。そのぶん、“足元”に視線を割けない。

つまり──“死角”がある。


(なら……そこを狙う!)


俺は近づくことを一旦やめ、グラウンドの中央──ヤツの圧縮弾でえぐられた斜面の窪みに走った。そしてそこに身を沈めた。ここなら、ヤツからは視界も斜線も通らない。


予想通り、灰色の巨人は圧縮弾の発射をやめた。そして、ゆっくりと歩を進めてくる。

まるで、勝利を確信し、最後のとどめを刺すつもりのように。


(なめるなよ……)


俺は膝をつき、斜面の地面に右手を置く。さっきよりも強く──大きくなれ、と願いながら。


──ズゥン。


脳の奥で、ぬるりと何かが回転する感覚。直後、斜面に直径5メートルほどの漆黒の円が現れた。


(……できた。落とし穴──)


十分なサイズだ。どうやら、落とし穴の大きさはある程度“意志”で制御できるらしい。


俺とヤツを結ぶ線上──ちょうど“左足”が踏み込まれるであろうポイント。しかも崩れた地形と混ざって、見分けもつかない位置にある。


(あとは──誘導するだけだ)


俺は窪みから一気に飛び出した。そして、あえて37に背を向けて、一直線に“逃げた”。


バンッ!


すぐ後ろで炸裂音。土煙と風が足元をえぐる。ふらつきながら、それでも走る。止まったら、終わる。


──来い。


(来いよ……37!)


ヤツは、俺を逃がすつもりはない。圧縮弾を撃ちながら、少しずつ間合いを詰めてくる。


バンッ!!


視界が白く揺れた。頭の奥が灼ける。目の裏が熱い。

圧縮弾が、後頭部に直撃したのだ。俺はそのままうつ伏せに倒れ込む。


──だが、倒れるとき、背中越しに見えた。


ヤツの“左足”が、俺の仕掛けた死角の縁を踏み込んでいた。


ズズッ……!


俺は手をついて、顔だけをゆっくり振り返る。


ズズズズズ……!!


奴の巨大な足が、重さとともに“空間ごと”沈んでいく。

片足が落ち、バランスを崩す。もう一方の足で踏ん張ろうとしているが、落とし穴はまるで意思を持った生物のようにヤツを飲み込んでいく──


ズゥゥゥンッッ!!!


地面が崩れる。落とし穴が拡がっているようにも見える。


ズブズブと、37の脚が沈み──腰、胴体、肩……


ヤツは必死に抵抗している。両手で地面を掴み、体を引き起こそうとしている。


──だが、もう遅い。


「……落ちろ……!」


ズズズズズズズ……


37の指先が、最後に地表をなぞり──


完全に飲み込まれた。そして、落とし穴とともに、灰色の巨人は完全に消失した。




──静寂。



風の音も、鼓動すら、遠くに感じるような感覚。


(……終わった?)


身体の中から、熱が抜けていく。

あの高揚感も、快感も今はもう消えていた。


──俺は、俺に戻ったのか。


視界が、ふいに崩れた。


──すうっ……


身体が落ちていく。

空が遠ざかる。グラウンドが沈んでいく。


--------


目を開けると、倉庫の天井があった。


(……ここは……)


もう、グラウンドではない。さっきの倉庫だ。

俺は自分の手を見下ろす。紺の装甲は消えている。

巨大化も解けて、俺は──いつもの“俺”に戻っていた。背中の熱も、不気味な声も、もう感じない。


体が重い。虚脱感が全身にまとわりついて、指一本動かすのも億劫だ。



そのとき──



「ギィ……」と、倉庫の扉が開く音。


コツ、コツ……と靴音が近づいてくる。


視線を上げると、制服のスカート。

……やばっ、角度的にパンツ見えそう。


彼女は何も言わず、すっと俺の横にしゃがみこみ、顔を覗き込んだ。


(一ノ瀬さん……? いや、違う。でも……見たことある顔だ)


「生きてる?」


(え、どういうこと……?)


「君、一年生だよね? 動ける?」


俺はなんとか体を起こそうとするが、力が入らない。すると彼女がさっと手を貸してくれ、上体を支えてくれる。


顔が近い。まつげが長くて、目力がすごい。そして、やたらと胸が近い。胸はすごく大きい。


(……朝比奈 真央だ。3年の生徒会長にして、書道部主将。学年一の才女。しかも、かわいい。なんでここに……!?)


状況が飲み込めない。頭が回らない。


「ここから出るわよ。歩ける?」


朝比奈は俺の脇に腕を回し、立たせようとする。


俺は力が入らず、思わず彼女にもたれかかってしまった。柔らかい感触。……胸、ヤバい。



「え、あの……朝比奈先輩ですよね? なんでここに……?」


「質問は後。すぐに警察とかマスコミが押し寄せるわ」



彼女の声は静かだが、言葉には強い力がある。


「裏門から出る。人目につかないように。行けるわね?」



考えも回らないまま、俺は朝比奈真央の肩を借りて、ふらつく足で倉庫を後にした。

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