第四話 灰色の巨人【37番】との初戦:校庭バトル①
前話の内容:高校の校舎を襲う灰色の巨人【背番号37】。ヒロトはまたあの声を聞く。突如として巨大化し、”灰色の巨人”と対峙する。
灰色の巨人は、俺の出現に驚いたように足を止め、こちらにゆっくりと向き直る。膝をわずかに曲げ、低く構えたその姿から、獣のような殺気が滲んでいた。灰色の巨人は、地面を二度、三度と踏み鳴らした。
(……来る……!)
次の瞬間──雷のような振動が地中を走り、空気がビリビリと震えた。
ヤツは──地面を蹴った。
重さをまるで感じさせない、異常なスピード。弾丸のように、肩からぶつかってくる。
「ぐっ……!」
反応する暇もなかった。俺の身体は宙に放り出され、グラウンドの端まで吹き飛んだ。木々をなぎ倒し、砂煙を巻き上げながら転がった。
──痛みは、ない。
代わりに、頭の奥がジンジンと痺れる。じわじわと得体の知れない“快感”が湧き上がる。恐怖でも怒りでもない。もっと根源的な、暴力への悦び。
俺は座り込んだまま、自分の腕と足を見る。さっきまで気づかなかったが、深い紺色で、艶やかに光っている──これが、俺の身体……。
(顔はどうなっている?いや、その余裕はない)
砂煙の向こう。ヤツの右手が大きく振られる。
──何か、投げてくる。
バンッ!
音のない衝撃が、空気ごと俺の胸に突き刺さった。ぐらり、と上体が揺れる。やはり痛みはない。
(やれるもんなら、やってみろよ……)
反射的に浮かんだ思考に、自分でゾッとした。
俺は──戦いたいと、思っている。
そんな感情、これまでの人生で一度だって抱いたことはなかった。
──また、来る。
バンッ!
顔面に直撃。視界がかすむ。それでも──痛みは、ない。ただ、“重さ”と、“熱”だけが身体を満たしていた。
(……叫びたい……)
喉の奥から、獣のような声が漏れそうになる。それを必死に抑えながら、俺は跳んだ。両足で地面を蹴り、まっすぐ巨人に向かって飛びかかる。
──だが、ヤツの反応はさらに速かった。
右腕がしなやかに後ろから前へ振り出された。
バンッ!
腹に炸裂する見えない弾丸──圧縮弾。
「……ぐっ!」
空中でバランスを失い、背中から地面に叩きつけられる。
──間髪入れず、連射。
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ!
右、左、右、左。正確無比なタイミングで、圧縮弾が飛んでくる。
立ち上がる隙すら与えられない。受けるたび、身体は押し戻され、徐々に制御が利かなくなっていく。
(このままじゃ……殺される!)
俺は地面に膝をついた。左腕で顔を庇い、右手を地面に押しつける。
──その瞬間だった。
ズゥン……
地面が、ごくわずかに“揺れた”。
頭の奥で、何かが“ぬるり”と動いた感覚。 まるで、今まで使われたことのなかった“スイッチ”が回ったかのように──
「……?」
右手の先。地面が黒く歪んでいた。直径1メートルほどの、漆黒の円形。中は底なしの闇。音もなければ、光すら飲み込んでいく。
(……これ、穴?)
ただの落とし穴じゃない。空間そのものが“抜け落ちた”ような、異質な存在。
俺の能力──そう思うには唐突すぎるが、確かにこの手から“生まれた”。
考えるより早く、体が動いた。受け身のように右へ転がり、再び右手で地面を触る。
ズゥン。
また、あの“ぬるり”とした感覚。 脳の奥で、別の歯車がひとつ、ゆっくりと回転する。
新たな“穴”が、俺の手元に開いた。 さっきより大きい。半畳ほどか。しかし、前の穴は、すでに消えている。
(……一度に一つだけ?)
制限つきの能力。しかも、今のところ出せる場所は、自分の手の届く範囲のみ。
(こんなもので、勝てるのか……?)
──が、ヤツは止まらない。
バンッ、バンッ!
左右の肩に直撃する。灰色な巨人は距離を取りながら、冷酷な精度で撃ってくる。
もう何十発も食らっている。だが、身体はまだ全然動ける。俺の新たな体は傷を負っている感じもない。こっちの防御力が高いのか……それとも、ヤツの攻撃力が弱いだけか。いずれにせよ、この不利な状況を楽しんでいる自分がいる。俺が?それともこの身体が?
(いや、考えるな。)
問題は──どう反撃するかだ。
現状、”落とし穴”が唯一の攻撃手段だ。──灰色の巨人をそこに落とすしかない。
距離が遠すぎる。遠隔攻撃を連続で行う相手とは相性が悪い。ヤツの動きを見極め、間合いを詰める必要がある。見極められたら終わりだ……一発で仕留めるしかない。
次話で『37番』との戦いは決着します。4/3夜以降の更新予定です。乞うご期待。ぜひブックマークもお願いします。