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第三話 その日、俺は巨大化した──背負わされた番号

倉庫の中は暗く、少しひんやりとしている。汗がひき、さっきまでの背中の灼けるような熱も、もうない。倉庫の端にあった汚れた茶色のマットを引き伸ばし、横になる。少年野球の頃、よく嗅いだ土埃のにおい。少しだけ、安心した。


一ノ瀬さんの太ももが、俺の太ももに当たっていた。

あの瞬間に戻りたい。

もう少し、一ノ瀬さんと話をしたかった。もっと、一ノ瀬さんのこと、知りたかった。


しかし、戻れない。たぶんもう、二度と。


背中に現れた、あの数字。緑に点滅していた「38」。

ニュージーランドの巨人と同じ。他の2体とも同じ、緑に点滅する数字──背中に刻まれた、呪いのような数字。


──いや、明らかに同じものだった。


ということは、俺が……

化け物たちと同じ仲間ってこと?


どうしたらいい?誰にも話せるわけない。

一ノ瀬さんには……もう、会えないかもしれない。

学校にも……もう、行けないかもしれない。


(……これが夢なら、覚めてくれ)


──そのとき。


ドォォン!!!


何か爆発したような音。倉庫が揺れた。

天井から、砂がパラパラと落ちてくる。


(地震?)


反射的に、長机の下に滑り込む。


──ガガガッ、ドォォン!


もう一度、爆音。でも地面は揺れてない。音が、すぐ外から聞こえている。

俺は、机を這い出て、倉庫の小窓から外を見た。


──嘘だろ。校舎が、崩れていた。


西棟の一部が吹き飛び、コンクリートの塊と鉄骨が瓦礫と化している。


そこに“ヤツ”はいた。


全身が灰色の巨人。装甲を纏ったような手足。顔には、目も口も“あるはず”だが、全体が石膏のようなもので覆われていて表情は読み取れない。3階建ての校舎の、倍以上の身長。


灰色の巨人は、両方の手をぶん回して後者を殴っている。鉄筋コンクリの校舎がいとも簡単に崩れる。それは“怒り”じゃない。もっと単純な、“破壊”だ。


(……あれは)


巨人の背中が、ちらりと見えた。緑に、数字が光る。


『37……!!』


“38”と“37”……俺の「38」のひとつ前。

ただの偶然か? それとも──

何か意味があるのか?わからない。


あいつは、俺たちの教室がある棟を壊そうとしていた。俺には学校に大した思い入れはない。でも、あんなふうに無惨に壊されるのを見ていると、腹の奥が、じりじりと熱くなった。


──そのとき。屋上に、1つの人影。


制服姿の……女の子?誰か、生徒が残ってる……!臨時休校のはずなのに。


巨人の拳が屋上の手すりを砕く。そのすぐ近くに、誰かが走って逃げている。


助ける? 

どうやって?

あんな化け物に──勝てるわけない。


足が震えている。

心臓の音が聞こえる。緊張が、胸を締めつける。鼓動が暴れ出す。


『……チキュウジンヲセンメツセヨ……』

また、あの不気味な声。


『……チキュウジンヲセンメツセヨ……』

一ノ瀬さんの家で聞いた、あの声だ。


背中が、熱くなっていく。また来る。あの感覚。さっきよりも、もっと切迫してる。心臓がバクバクと鳴り、手足が震え出す。


屋上の一部が崩れ、生徒が何やら叫んだような気がした。


『……チキュウジンヲセンメツセヨ……』


灼けるような背中の熱。

皮膚の内側で、何かが暴れてる。背中が脈打つ。内側から身体がねじられていく。

指先が痺れ、足元がぐらつく。

何かが入り込んでくる。俺の中に。自分の体が何か別なものに支配されていく。

拒絶しきれない。


「……っ……」


喉が震えた。けど、声にはならなかった。

巨人は、拳を振り上げていた。


(やめろよ……!やめてくれ)


祈る気持ちだ。そして、何かしなければという焦燥感ばかりが募る。


(……助けなきゃ。でも、どうやって?)


でも、足は動かない。腕も、震えているだけ。

でも──もう、抗えなかった。


『……オマエハチカラガホシイカ……』


(え、いつもと違う。力?……欲しくなんか……ない。けど──)


校舎を潰す拳。誰かが、死ぬ。


(俺が、止めなきゃ……でも……)


──背中から何かが滲み出す。神経の奥から“異物”が伸びてくる。

指先がしびれ、視界が淡く滲む──まるで自分が“自分”からはがれていくようだった。


助けたい。でも逃げたい。そんな自分を、力が飲み込んでいった──

すう、と音もなく、視界が落ちた———


--------


次の瞬間、俺はグラウンドの真ん中に立っていた。


(……いつもと景色が違う)

校舎が、低い。

地面が、遠い。

遠くの町が見える。


──そうか、自分がでかくなったんだ。


屋上を見る。いや、見下ろしている。先ほどの制服姿の人影が見える。

良かった、間に合った。まだ生きている。

……一ノ瀬さん?──いや、別人だ。


灰色の巨人は、動きを止めて、顔をこちらに向けた。

ほとんど同じ目線だ。

俺も巨人になったのだ。


何だ、力がみなぎってくる。

身体はすでに、“別のもの”だった。

腕を振ると、空気が唸った。

重さは感じない。むしろ、軽い。


何だ、これまで体験したことのないようなエネルギーを体内に感じる。


(……この力を、試してみたいと……思ってしまった自分がいた)


相手の顔は石膏のようなもので覆われていて、目は見えない。

しかし、お互いに見合っている。何だ、この感じ。

誰かに似てるようなる……?

いや、気のせいだ。こんな化け物、知らないはずだろ……

こいつは破壊者だ。俺たちの高校を破壊している。

俺は違う……。


灰色の巨人は、俺に向かって身を構えた。

なのに、怖くない。

むしろ、心地いい。

この体、この力──

俺はもう、“普通の俺”に戻れないかもしれない。


(……来る!)


「……やってやるよ」


声は、もう俺の声ではなかった。

最後まで読んでいただきまして、どうもありがとうございます!

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