表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

プロローグ 最初の目撃

マウントクック国立公園。

世界遺産にも登録されている、ニュージーランド屈指の景勝地である。


突き抜けるような青空の下、銀白色の雪を抱く雄大な山々が連なる。麓には深い森林が広がり、壮大な氷河が輝きを放つ圧倒的な自然が展開している。


キャンプ場から続くトレッキングコースは、三つの吊り橋を渡り、氷河湖へと至る。そこでは、今日も老若男女がトレッキングを楽しむ姿が見られた。


その途中、一組の家族が岩場で休憩を取っていた。


父親はリュックを下ろし、岩に腰を下ろしてトレッキングシューズの靴紐を結び直している。母親は水筒から温かい紅茶を飲み、穏やかな時間を味わっていた。


「ここに来てよかったわね」母親が微笑むと、父親も頷いた。

「そうだね、ミアは楽しそうだ」


二人が目を向けた先に、大きな岩の上に立って双眼鏡を覗いている少女がいた。母親は「ミア」と呼びかけたが、強い風に声はさらわれてしまう。少女は風で飛ばされないようベースボールキャップを片手で押さえ、夢中になって何かを探していた。


「まったく。鳥に夢中だね。ミアが満足するまで待とうか」


父親は肩をすくめた。


そのとき、少女が興奮した様子で叫んだ。


「あっ、お父さん、あれ、ハヤブサじゃない?」

「本当かい?パパにも見せてくれ」


ミアと呼ばれた少女は父親に双眼鏡を渡そうとしたが、途中で動きを止めた。

ミアの表情が凍りつく。


「……え?なに、あれ?」


「お父さん!早く見て!」

ミアは急いで父親に双眼鏡を押し付け、遠くの山肌を指差した。


父親が双眼鏡を覗くまでもなく、その異様な光景は肉眼でも明らかだった。母親もすぐに視線を向ける。


山の稜線に、黒い巨大な塊が突き出している。人の形をしているようだが、生物とは思えない。


父親は双眼鏡を覗き、その正体を確かめようとする。黒い石像のようなもの。手足は一様に太く、くびれがない。頭部には口はなく、目のような深い窪みが二つ。それは、じっとこちらを見つめているように思えた。


父親の背筋がゾクリと震えた。長年の登山経験が、警告を発していた。


「逃げよう」


努めて冷静に告げる父親。その有無を言わせぬ態度に、母親もミアも無言で従った。三人は、来た道を走って戻り始めた。


周囲の登山者たちも異変に気づき、ざわめき始めた。

誰もがその不気味な存在から目を離せないでいた。



--------



突然、それまで吹き荒れていた風がピタリと止まった。


ゴゴゴゴ……


遠くから地鳴りが響き始める。


次の瞬間、その巨大な黒い塊がゆっくりと浮遊した。


「きゃあっ!動いた!」


悲鳴が上がり、登山客の間でパニックが広がる。


ズシンと地面が揺れ、遠くの氷河がゴゴゴゴ……バリバリッと崩れ落ちた。

黒い塊が空を飛んで近づいてくる。


「こっちへ来るぞ、逃げろ!」


人々は混乱し、我先にトレッキングコースを駆け下り始めた。


「こっちだ!」


ミアの父親は、家族を連れてトレッキングコースを外れ、藪をかき分けて岩陰に身を潜めた。逃げるよりも隠れるほうが安全だと直感したのだ。


息をひそめながら岩陰から様子をうかがうと、巨人のような物体が近くの吊り橋の真上に浮かんでいる。その巨大さは、吊り橋の半分を覆い尽くすほどだった。


巨人の腕が振り下ろされると、ビュゴォォォォッ! 暴風が唸りを上げて巻き起こる。吊り橋はギシギシギシッと悲鳴を上げ、ドガシャァァァンッ! バリバリバリィィィッ!と音を立てて引き裂かれ、谷底へと崩落した。


周囲には絶叫が響き渡る。


「目を閉じて」父親が家族に囁く。


谷底へと人々が次々と落ちていく光景は、まさに悪夢そのものだった。


巨人がゆっくりとこちらを向く。もう一方の腕が静かに降り下ろされると、ゴォォォォォッ!!!猛烈な風が再び吹き荒れた。逃げ惑う人々は宙に巻き上げられ、次々と谷底へと吸い込まれていく。


その巨人の背中では、緑色のデジタル数字がドクン、ドクンと心臓の鼓動のように淡く点滅している。


次の瞬間、巨人はスゥッと空間から消え去った。



次回:第1話は3/27(木) 22時頃に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ