6 問題ないけど、そうじゃない
その昔、あまりにも美しく輝く宝石に、恋をした女がいた。
女は七色に輝く宝石に魅了され、常に宝石を持ち歩いた。
恋人と街中を歩き回るように、愛しい人に語りかけるように宝石と行動を共にした。
無機物相手に愛を囁く姿は憐れで滑稽だったが、その宝石の輝きは女以外の多くの人間も魅了した。
宝石に魅了された男が、貴族が、王族が女に宝石を譲るよう詰め寄った。詰め寄った先で人々は争いはじめ、宝石を巡って数々の争いが起きた。
『誰にも渡さない。たとえ宝石が望んでも、私以外が宝石を手にする事は絶対に許さない』
宝石を奪われそうになった女は、誰かに宝石を奪われる前に、宝石を呑み込んだ。
『これでこの宝石は私の物。私の一部』
女の額には、七色に輝く宝石が生えた。
宝石を取り込んだ所為か、宝石が人々を魅了したように、女も人々を魅了する不思議な力を手に入れていた。宝石に魅了されていた人々はそのまま、女に執着するようになる。
しかし女は、富にも名誉にも興味がなかった。
彼女が関心を向けているのは宝石だけ。そして愛しの宝石と融合する事に成功した女は、熱狂する人々から離れて山奥へと移り住んだ。
女の死後、山には鉱山が見付かり、その山は宝の山として人々の関心を奪い続けた。
これは『宝石の女』と呼ばれる、童話にもなりきれない、都市伝説のような作り話。
あの鉱山では良質な宝石が取れると噂になれば、『宝石の女』が死んだ山だなどと冗談交じりに言われる程度の話。
そう思われていた。
しかしこれは、実話。
――『宝石の女』こそ、ミモザの祖だ。
山へと移住した女はその後、七つの宝石を産んだ。
その宝石は人であり、女と同じように額に宝石を宿していた。
違うのはそれぞれ宝石の色が異なる事くらい。似た顔で似た姿。血族だとすぐ分かる類似性。女が四人に男が三人。不思議と彼らは、自分が何番目なのかを理解していた。
彼らは同族で番となり、長女は母である女が亡くなったあとに残った宝石を、母と同じように呑み込む。そして母と同じように七つの子を産む。
七つ子は親と同じく番を作り、また長女が亡き母の宝石を呑んで七つ子を産んだ。
長女以外は番が亡くなったときに残された宝石を呑み、子を成した。
番を得なかった場合でも、亡くなったあとに残った宝石を呑めば子は成せた。残された宝石を呑めば、呑んだ宝石を宿した子が産まれる。
けれど母の…七色の宝石を呑めるのは、直系の長女だけ。
他の子が無理に呑み干せば窒息する。宝石を呑んで七つ子を産めるのは、直系の長女だけだった。
そんな特殊な、言ってしまえば人とは思えない繁殖方法で増える彼らは、山奥で独自の世界観を生み出し生活していた。
彼らは彼らだけで完結していた。宝石を中心に、ぐるぐると肉体の消失と再生を繰り返す。
決まった数だけ産んで、死んで、また産まれる。増えすぎず減りすぎない彼らは、ずっと山奥で暮していた。
そこに、人間の男が迷い込む。
それが、ミモザの父。
ミモザは何代目かもわからない七つ子の長女と、迷い込んだ男が恋に落ちて生まれた…宝石を介さないで産まれた、異端児だった。
「つまり、生殖機能に問題ないということだな」
「この話を聞いてまずそこですか!?」
人としてあり得ない一族を語ったはずなのに、エピメディウムの反応はやはりぶっ飛んでいた。
シリアスな語りだと思ったでしょう?
作者も思いました。
ぶっ壊されました。
次回 3/22 6:00更新予定。