5 不躾な手だけど、そうじゃない
思いがけない感触に、ミモザは身を捩って抵抗した。
「な、何をするんですか!」
「わかっていないようだからわからせなければと思った」
「何をですか!」
「俺は誠実の騎士ではなく、君に乱されたただの男だ」
大きな手がスカートをまくり上げて足に触れた。
素肌に触れた他人の熱に、カッとミモザの中で怒りが弾けた。
(いい加減にして!)
逃れようとしていたミモザは、正面から拘束するエピメディウムの胴体にしがみついた。しがみ付いて、両足を浮かせる。
ミモザと彼の、全ての重心がエピメディウムに集中する。瞬間、足を振り子のように爪先をエピメディウムの脛に叩き付けた。
「ぐ!?」
人体の急所。泣き所への攻撃は効いたらしく、エピメディウムの拘束が緩む。
ミモザはするりと回るように腕から抜け出し、その足を軸に回転してエピメディウムの側頭部へ回し蹴りを繰り出した。
この隙にたたみ掛けねば身の危険だと本能が訴えた。
しかし言動がおかしくても騎士団長。エピメディウムの回復は早かった。彼はミモザの繰り出した鋭い蹴りを脇で挟んで拘束した。
蹴りの反動でぶわりと広がったスカートが、普段隠れた太ももを晒す。しなやかな白い足。鍛えられた魅惑的な足が露わになった。
その足をじっくり確認した桃色が、意外と冷静に呟く。
「足は違うか…」
一瞬、何を言われたかわからなかった。
「きゃあ!」
わからなかったが、足を固定されたまま足払いされて、それどころではなくなった。
体勢を崩した身体が床に引き倒される。
倒れた衝撃で萎れた花が舞い上がり、押し倒されたミモザとのし掛かるエピメディウムの周囲をひらひらと千切れた花びらが舞った。
すぐ抜け出そうと藻掻いたけれど、足が絡まり動かせない。腕も大きな手に押さえられて、力の差で負けてしまった。
ミモザの腕を拘束する手の平は、何かを確かめるように服の上からミモザの腕を這っていく。
手首から腕、二の腕と這い上がり、肩を包む手の平。
何がしたいのかと睨み付ければ、また「違う」と呟く。
「ここでもない」と。
そう言われて…ミモザは心当たりに、蒼白になった。
「な、なんで…」
「言っただろう。俺は君に乱されたただの男だと――君を知りたくて、随分遡って調べた」
「まさかそんなっ」
そんな。どうやって。
調べられるものなのか。
大きな手が、ミモザの胸元に触れた。
…その感触に、桃色の目が細まった。
「ここか」
「待って…!」
制止するミモザの声を聞かず、エピメディウムはミモザの服を緩めた。ボタンが外され上着がはだける。必死にエピメディウムの手を握って抵抗したけれど、正面から力勝負など勝てるわけもなかった。
そうして晒された、ミモザの胸元。
白い肌に膨らんだ胸。細い首になだらかな鎖骨。
――鎖骨の下に、明らかに人体ではあり得ない輝きを放つ石が、あった。
キラキラと輝く、三つの黄色い宝石。星のように小さなそれらは、ミモザの胸元から生えていた。
ミモザの肌を晒した男の指先が、宝石に触れる。
宝石からはコツリと、人体ではあり得ない音がした。
「…ミモザ、君は『宝石の女』か」
『宝石の女』
それは、宝石に魅入られた女の昔話。
教訓を伝える童話にもなりきれない、薄気味悪いだけの都市伝説のような作り話。
作り話だと…思われているもの。
「…いいえ違います。『宝石の女』は私じゃない…」
ミモザはエピメディウムの手を振り払い、露わになった胸元を手で覆った。
「『宝石の女』は…私の、祖です…」
それでも胸元の宝石は、指の隙間から無機質に輝いていた。
実はこの宝石を探していたエピメディウム。
目的はいかがわしいあれこれじゃなかったんですが、だからってやっていることが騎士のそれでないので、しっかり蹴られるべき。
ちなみにエピメディウムは四つ葉の一角を担う二つ葉の騎士なので、あと三人同じ立場の騎士団長がいる。
つまりコイツを捕まえられる奴がいる。
おまわりさん!! この騎士団長です!!
次回 3/21 6:00 投稿予定。