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3 気付かれないようにしていたけれど、そうじゃない


 ミモザの自白を聞いたエピメディウムに動揺は見られなかった。

 知っている事実を確認しているだけの無感動さに、ミモザは小さく安堵した。


(…なんだ。おかしな流れになったと思ったけれど、ちゃんと私の正体はわかっていたのね)


 わかっていなければどうしようかと思った。

 流石に、そこまで節穴ではなかった。


「…君がアカシアだとわかってからも、すぐにそれを信じることはできなかった」


 空になった花瓶を足元に置き、エピメディウムが淡々と語る。

 返答を求められている気がしたが、ミモザは黙った。

 言い逃れも言い訳もしないつもりだったから。


「犯行現場から推察した犯行日時。侵入経路。盗みを働く手口。逃走経路。全てを照合して君のアリバイから当時の軌跡も全て確認して、君以外にアカシアはいないとわかっても尚、俺は信じられない」


 嘘であってくれと望まれている気がした。

 でも嘘だと言えなくて、ミモザは俯いた。


 エピメディウムとは花屋の店員(ミモザ)として交流があった。

 挨拶をして世間話をして、時々は家族や友人に感謝を伝えなければと花を買っていってくれた。

 誠実の騎士と呼ばれるだけあって、彼はいつだって本当に、分け隔て無くて誠実だった。


 騎士のほとんどは貴族の出身だ。エピメディウムも例に漏れず、貴族の出である。

 そんな彼は花屋の店員でしかないミモザにも普通に接してくれた。

 ミモザにだけではない。彼は誰に対しても同じ態度で、争い事にも平等な目を向ける事ができる人だ。


 そんな彼に、犯罪者として見られるのは辛い事だ。

 覚悟はしていたが、やはり責める目で見られるのは胸が痛み…。


「アカシアのあんなセクシーな格好で、男を翻弄する言動を、淑やかな君がしていたなんて」

「待って」


 着眼点。

 着眼点がおかしい。

 認めたくない着眼点はそこなのか。


 ちなみに怪盗アカシアは金色の髪を高く結い上げて、漆黒の衣を身に纏い夜の街を暗躍している。


「昼間は露出が少なくて清楚な君が、夜になるとあんな過激なレオタードになって夜の街を徘徊するなんて」

「言い方に悪意がありませんか!」


 …漆黒の衣は、動きやすさを重視したレオタードだった。

 確かに動きやすさを重視していたので、怪盗アカシアの姿は刺激的かもしれない。

 しかし裾を引っかけて転倒なんて目も当てられない。そんな心配のないレオタードを着用していたが、胸も腰も足の形も丸わかりで、幼い子供の前に立ってはいけないとミモザも思う。


 勿論怪盗として暗躍するのだから人に気付かれないように移動してはいるが、何度か騎士達の包囲網に囚われそうになった事がある。

 だから当然、エピメディウムもアカシアの格好を見た事があった。


「普段は穏やかで親身に話してくれる君が、夜になるとあんな挑発的に誘惑してくるなんて」

「し、視線誘導はしましたがそれだけです!」


 店員としては接客なので、個性を出す会話はそもそもしないようにしていた。逆に怪盗としての言動は、相手を興奮状態にして冷静な判断を奪うのが目的なので、わざと挑発的な態度をとった。


 しかしそれが本性だとかではない。

 普段の自分とアカシアを乖離させるため、あえて刺激的なお姉さんを演じた部分は認める。

 しかしそれは少しでも気付かれる要素を無くすためだ。

 繰り返すが、本性ではない。


「正直、普段穏やかな君にあんなエッチな一面があるのだと思えばとても興奮する」


 なんてことを真顔で言うのだこの誠実の騎士。

 なんでも正直なら誠実ってわけじゃないぞ。


「ぜ、全部演技です! 勘違いしないでください!」

「成る程これが勘違いしないでよね。ツンデレか」

「違います!」

「ちなみに怪盗としてなら25人の心臓を盗んでいる」

「え、僅差で負けてる…!」


 いえ争ってはいませんが。

 争ってはいないけれど、お色気怪盗より平凡な花屋の方が二人多くてちょっとびっくりした。男の人ってちょっとエッチなお姉さんが好きだと思っていたから特にびっくりした。


「騎士団では包容力のある花屋の店員さんと、イケナイお姉さん怪盗の二大派閥が水面下で抗争を繰り広げている」

「なんて内容で内部抗争をはじめてしまったのですか騎士団…!」


 街の治安を維持する役割なのに、そんなんで内部抗争を繰り広げないで欲しい。

 というかそもそも、何故そこまでミモザに注目しているのだ。そこまで騎士団に絡んだ覚えのないミモザは困惑している。


「キュートとセクシーどっちが好き? ってやつだ」

「そんなの個人の嗜好なので争う意味なんかありません!」

「ああ、意味はないな。どちらも君だ。だが抗争は止まらない」


 せめて「内部」と付けたままにしてくれないだろうか。まるでミモザが争いの種のようだ。


「どちらも君だと知っているのは、俺だけだからな」

「えっ」

「君の正体を知っているのは俺だけだ」


 エピメディウムの手が、ミモザの身体を閉じ込めるように壁に手を突いた。



この男、淡々ととんでもないことを言っているし気付かれているが何回もとんでも発言するのでミモザは混乱してそれどころではない。

おまわりさんこの騎士です。


次回 3/19 6:00 投稿予定です。


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