エピメディウム視点 4
(『宝石の女』になれるミモザを愛し慈しみ育てられなかったのは、宝石が愛しい女に裏切られたからだろう)
ミモザの母が人間の男に恋をしたから、愛する女に裏切られた宝石が、愛しさ余って憎さ百倍とミモザを虐げた。
虐げれば、想いが離れて当然なのに。
一人の女との逢瀬を繰り返した宝石には、それが分からなかったようだ。
結果的にミモザにとって脅威でしかなかった叔母達は、『宝石の女』になり得る最後の一人であったミモザの心を得ることができなかった。
だからミモザは山を下りて、世界一美しい宝石を探してアカシアとなった。
自分が『宝石の女』になる機会を自ら捨てたと気付かずに、懸命に。
(ミモザが宝石を産むと必死になっているときは他の宝石に心変わりしたかと思ったが、単純に知らなかっただけのようだし…彼女の心は宝石に向けられていない)
しかし現段階では、というだけ。無機物まで魅了する女の末裔だ。油断はできない。
(ミモザは一般人に近い感性をしているが油断はできない。いつ真実に気付くかも分からない。義父上も同じ懸念をしていた)
義父は万が一、ミモザがこの茶番の真相に気付いて宝石を掘り起こして呑まないように、先に掘り起こして宝石を砕きに来たのだ。
自分の身体が動く内に、娘が『宝石の女』にならないように。物言わぬ宝石を、粉々に砕きに来た。
なんなら既に彼は七つある内の六つを掘り返し、既に六つの宝石を砕いていた。
…残った最後の一つは、ミモザの母親。義父上の妻の墓標。
娘のために彼は、妻の宝石も砕くつもりで墓を掘り起こしていた。
エピメディウムは最後の灯火を揺らしながら懸命に宝石を砕く男を見届けて、託されて、山を後にした。
不甲斐なくて娘に会えなかった父親の贖罪、娘の自由と幸福を願う義父の想いを受けとめた。
父親に捨てられたと思っているミモザに、最後の最後で命をかけた父親の話はしなかった。ミモザは信じられないだろうし、恐らく義父上も望んでいない。エピメディウムは丁寧にミモザの両親を弔ってから、その足でミモザの元へと向かった。
彼女を幸せにすると両親に誓ったから。
騎士として、誓いを反故するわけにはいかない。
絶対に幸せにする。
特殊な生まれだからこそ、今まで辛い思いをしてきたからこそ、彼女は幸せになるべきだ。
幸せになるためにも…。
「数多の男を骨抜きにする初恋泥棒がこれ以上罪を重ねないように自宅に連れ込もうとしただけなのに、何故誰にも理解されない?」
「なんで理解されると思った?」
洗脳されているミモザを哀れんでいた幸運の騎士は、誠実と常識をかなぐり捨てて我欲に塗れるエピメディウムを見て、そんな男に想われている彼女に同情した。
本当にコイツどうしよう。
「幸せになるためには愛の巣が必要だと何故分からない」
「愛し合っている二人の拠点だから愛の巣って呼ばれるってなんでわかんないの?」
「分かっているが?」
「愛し合ってないって分かってる?」
「愛し合うために一緒になるのだから実質同じ意味だろう」
「ねーえ僕には手に負えないんだけど! おじさんなんとかしてよ!!」
「手綱を握ろうとするから翻弄されるんだよ。こういうのは放し飼い。手綱はパートナーに握って貰って、こちらは制裁の準備だけしておこうね」
「そのパートナーがいないんだってば!」
失礼な。ミモザという人生のパートナーがいる。
これからは騎士団が、更生の為に保護観察対象としてミモザを囲う。そうなるとエピメディウムは確信している。
ミモザの胸元に宝石があるが、希望の騎士は希望の騎士なので女性の服をひん剥いたりしない。たとえ女性騎士が確認したとしても、常識的に考えて生まれつき宝石が埋まっているわけがない。それすら犯罪組織に洗脳の延長で移植されたと思われる。
言ってはなんだが、それくらいグロテスクな見た目をしていた。
人の肉に、宝石が埋め込まれているのだ。綺麗な見た目になるわけがない。
痛々しいそれが、常識ある人の目にどう映るのか、エピメディウムは知っている。エピメディウムからすれば眼福な光景も、他者からすれば人体実験の証に見えるのだ。
誰もミモザの話を信じない。
エピメディウム以外は、信じない。
(自分の真実を信じるのが俺だけだと気付いたとき、ミモザは俺を受け入れてくれるだろうか)
自分の生まれに囚われていた彼女は、その生まれを事実として受け入れるのがエピメディウムだけと気付いたとき、何を思うだろう。
(なんでもいい。何でもいいが、俺を受け入れてくれたらとても嬉しい)
受け入れてくれなくても、そのときが来るまでエピメディウムは何度でも彼女にアピールし続ける。
そのためにも彼女の身柄は、二つ葉の騎士団長エピメディウムがなんとしても確保する。
(義父上にミモザを託された俺しか、その役割は果たせない)
何せ、ご両親への挨拶はすませているのだから。
あとは本人の了承を得るだけだ。
順番がおかしいが、声に出さないので誰も気付くことはなかった。
意気込むエピメディウムだったが、その勢いが保護観察対象に危険と判断されてミモザの身柄は愛の騎士預かりとなった。
それから、エピメディウムがミモザの身柄を保護できるまで五ヶ月。
エピメディウムは、上層部に本気で執拗に延々とごねた。
彼が誠実の騎士と呼ばれることは、その後一度もなかった。
だってこれもう誠実の騎士とは呼べない男だもん…(関係者各位)
騎士団長として残されるのはミモザのこと以外ではまともだから。
そのミモザも一応保護観察対象なので、エピメディウムくらいの執着があった方が逃げられないので最終的にエピメディウム預かりになる。最初からならなかったのは普通に「コイツやばいな」と皆が思っていたから。冷却期間にもならなかった。
氷雨そら先生企画 愛が重いヒーロー企画
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