エピメディウム視点 1
ここからエピメディウム視点になります。
あと3~4話で完結予定。
その後、ミモザをお持ち帰りしているところを見付かったエピメディウムは、同僚に取り押さえられ…謹慎を命じられた。
遺憾の意。
「当然の処置だっての」
エピメディウムの半分ほどしか身長のない小柄な少年が、行儀悪く机に座って足を組んでいた。
緑青色の髪は耳の下で切り揃えられ、幼い女児にも見える。身長を裏切り精悍な顔立ちをした少年は、鋭い紫色の目に呆れを含ませてエピメディウムを睥睨していた。
「急に現地調査に行ってくるとか言い出して一週間帰らないと思えば、抵抗する女性を抱えて自宅に運送中とか。お前が誠実の騎士として名を知られていなければ即刻お縄だったよ」
「つまり責務から解放されてミモザだけを考えミモザだけに集中して生きられる?」
「お前どうしちゃったの恋ってこんなに人をダメにするものだったの? 教えて愛の騎士」
「恋と愛は違うから教えられることはないかなぁ」
「思ったより深い言葉を貰ったけど、これ見捨てられてんな」
部屋の扉横に椅子とサイドテーブルを置いて一人ティータイムとしゃれ込むのは、図体の大きな中年男性。大きな手でちまっとしたフォークを握り、幸せそうにケーキを食べている。癖のある黒髪に、白目の少ない仔犬のような黒い目。よく公園で休憩しているところを目撃されるリアルプリンセス(中年)は、角砂糖を四つ紅茶に落としていた。
呆れた顔で文句を言う幸運の騎士と、のんびり顔でケーキを食べている愛の騎士。
彼らがいるのはエピメディウムの執務室。謹慎を命じられているが、自宅にいる方が監視の目がないからと執務室でじっとしていろと命じられている。
二人は謹慎中の誠実の騎士…エピメディウムが脱走しないように、見張りの役割でここにいた。
そもそもエピメディウムが何故謹慎になったのか。
愛する人を連れ帰ろうとしていただけなのに、道中で希望の騎士と遭遇し、同僚から職質を受けたことが原因だ。
エピメディウムは何故か同僚から職質された。顔見知りから真剣な顔で詳細を問われた。
何故だ。わからない。
素直に答えた結果、ミモザは取り上げられてエピメディウムは謹慎。始末書を書く事となった。
不思議だ。
「ねえ、さっきから始末書進んでないんだけど」
「当たり前だ。悪いことをしていないのだから何を書けばいいのかわからない」
「マジで言ってるのこの人…」
「何故このような事をしたのか…? 愛故に、で終わってしまう。三文字で終わる」
「ダメだよ。なんでそれで許されると思った」
「愛の騎士がいるから愛の一言で許されると思った」
「おじさんの二つ名の所為にしちゃダメだろ。愛というより欲望のために行動してんだから愛を言い訳にするなよ」
「つまりそう書けばいいと?」
「希望の騎士があの暑苦しさで『誠実な君に何があったんだ! 悩み事があるなら三日間時間を取るぞ!』って詰め寄られるぞ」
「三日も時間を取られて堪るか。ミモザに会えないじゃないか」
「謹慎中だからそもそも会えねぇんだよわかれ」
「愛の」
「うん、反省しよう」
くどくど説教する幸運の騎士。こちらに全く興味を示さぬ愛の騎士。
二人とも取り付く島も無く、エピメディウムは無表情ながらも「不満」を表現したが、誰にも気付かれなかった。
この国の騎士団は四つ葉をモチーフにしており、四つの団がそれぞれの地区を守っている。
そして希望、誠実、愛、幸運の騎士団を統括するのが四つ葉の騎士団だ。つまり、誠実の騎士団長エピメディウムの上司は四つ葉の騎士団。
その四つ葉の騎士団から今回の件を怒られたエピメディウムは、行動を制限されていた。
「…ミモザに会いたい。あの香りを嗅ぎたい」
「お前は謹慎中だってば。コイツ本当に彼女のことになると行動おかしいな」
「人気者だもんね、花屋のミモザちゃん」
「僕は会ったことがないから分からないけど、そんなに美人なの?」
「可愛い子だと思うけど、おじさんからしたら若すぎるなぁ」
「知らなくていいぞ幸運の。ミモザの美しさは俺だけが知っていればいい。ただでさえ部下を牽制して心を折っているところなんだ。同じ立場のお前が知ろうとするなら決闘だ」
「あーわかったこれ知らない方が幸運ってやつだ。理解理解近付かないよ」
ペンを持ったまま睨みを利かせるエピメディウムを面倒そうに見て、幸運の騎士は深いため息を吐いた。
「にしても、二つ葉の担当地区だからって入れ込みすぎじゃない? あまりにも人気すぎて、あの子がアカシアだって公表できないじゃん」
――誠に遺憾ながら、ミモザは自首してしまった。
エピメディウムが取り押さえられたそのときに、自分がアカシアであると名乗り出てしまった。
ミモザが自首したので、希望の騎士はエピメディウムがミモザを連行する道中だったのかと誤解したが、エピメディウムが向かっていたのは騎士団本部ではなくて自宅。ミモザの行き先は牢獄ではなく自宅。
困惑した希望の騎士は、ミモザをどうするつもりだとエピメディウムに問いかけた。
エピメディウムはとても誠実に、嘘をつかず、正直に話したというのに、半泣きになった希望の騎士に縛り上げられて本部へ連行された。
ちなみに、自首したミモザの手足は拘束されていなかった。
ミモザ(このままじゃ監禁される…! 自首しないと…自首しないと監禁される…!)
正午にもう1話更新予定。