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1 いつか来ると思っていたけど、そうじゃない


「君を捕まえに来た」


 花屋の片付けに店先に出たミモザは、凜とした男性の声に顔を上げた。

 夕日に照らされた、緩やかな坂道。

 大通りから小道に入ってきた一人の騎士は街を巡回する甲冑を着た騎士と違い、階級の高い騎士が身につける紺色の詰め襟を身に纏っている。


 緩く編まれた白い髪。優しげに垂れた桃色の目。珍しい色彩のその人は俯いて咲く花のようにしなやかで、女性ならば白百合に喩えられただろう。

 けれど彼は男性で、白百合に喩えるには少々武骨だった。

 儚い色彩とは裏腹に、男性らしく太い身体は編まれた蔓のように強靱だ。数歩離れていても見上げなければ目が合わないくらい長身で、身につけている衣類もかっちりとした騎士服。

 その詰め襟には、この国の騎士団を表す四つ葉のクローバーの刺繍。


 彼は、この国が誇る四つ葉の一角を担う「誠実の騎士」

 二つ葉の騎士団長。エピメディウム・サジュサ。


(…とうとうこの日が来たのね)


 真剣な彼の視線を受けて、ミモザはゆっくり深呼吸をした。


 ミモザに、抵抗するつもりはなかった。

 言い訳も、白を切るつもりもない。

 彼が自分に辿り着いたそのときは、潔く罪を認めると決めていた。

 罪深い行いを重ねたからこそ、せめて引き際は潔く――…。


(はじめて盗みを働いたその日から、その時は無様に足掻かないと…決めていたもの)


 ミモザの罪は、窃盗。

 世を騒がせる怪盗アカシアとは、ミモザの事だ。


 宝石を専門に盗みを働く怪盗アカシアは貴族も平民も関係なく、貧富の差など気にも留めず目的の宝石があればどこにでも潜り込むこそ泥だ。

 高く結った金髪を靡かせて、漆黒の衣で夜の街を暗躍する仮面の女。

 宝石を盗んだ後、必ずアカシアの花を現場に残していく事から「アカシア」と呼び名が付けられた女怪盗。

 それが、ミモザ。


(何を言われても仕方がない。私は悪い事をしているもの)


 覚悟を込めて唇を噛む。表情を隠したくて俯いたミモザの顔を、緩やかな金髪が隠してくれる。


 背中まで流れる艶やかな髪を仕事中でも結わないのは、こうして俯けば顔を隠してくれるから。

 鮮やかな緑の目も、幼い顔立ちのわりに高い身長も、たっぷりした服で身を縮めて俯けば誤魔化すことができた。

 そうやって隠して、目立たないようにひっそり生きてきたけれど、それも今日まで。


(これで、終わり)


 ミモザは、ゆっくり深呼吸を繰り返し、意識して背筋を伸ばした。

 それでも、いつの間にか目前まで近付いていたエピメディウムとは、やはり見上げなければ目が合わない。


「何か言い逃れはあるか?」

「何も…ありません」

「なら、認めるんだな?」

「はい。すべて私が…悪いのです」

「そうか…」


 心臓が煩い。

 覚悟していたけれど、彼にこうして詰め寄られれば胸が痛む。


 笑顔で挨拶をして、軽い世間話をしていた彼はもういない。

 彼にとってミモザはよく話す花屋の店員ではなく、捕らえるべき罪人になってしまった。

 自業自得だ。

 わかっていたけれど、交友を深める内に宿ってしまった淡い想いに胸を痛め…。


「では騎士団員27人の心臓を打ち抜いて恋の奴隷にした事実を認めるんだな」

「なんて??」


 思っていた罪状と違うのが来た。

 流れ変わったな。



氷雨そら先生企画『愛が重いヒーロー企画』への参加作品です。

実はまだ執筆中。

今月中に完結できるように頑張ります…!

本日12:00にも投稿予定。


ちなみに同じ企画でもう一作品参加中。

『海の底で待っていて』https://ncode.syosetu.com/n1726kf/

こちらは完全にシリアスです。シリアスです。詐欺ではない。

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― 新着の感想 ―
くっ……一話目から面白いとは、恐ろしい子……(え
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