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ただの村娘の私の元に、救世の英雄が恩返しに来たのですが  作者: 紬夏乃
第二部

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『帰ろうか』






 ガイアスは、シアたちの今後の方針が決まった途端「さて、では我は帰るとしよう!」と立ち上がった。「今から帰るのか?」というレンカの声に、ガイアスは「うむ」と力強く頷く。どうも、何もかもがガイアスにとっては小さくて、とても不便だったらしい。街に付き人と魔道車を待たせっきりにしていたそうで、それなら、と皆でガイアスを見送った。「また会おう!」と豪快に笑い去ってゆく背中に、シアは大声で「ありがとうございました!」と叫んだ。




「ねえフィーくん、私たちもそろそろお暇しようか」


 ガイアスを見送った夜、シアはフィルディードの部屋を訪ねた。皆は『いつ帰るのか』とシアたちに聞かないだろう、と、温かな環境をありがたく思いながら、シアはフィルディードにそう切り出す。


「実はね、もう家と畑が気になって仕方なくて……」


「はい。僕も、あの家での生活が懐かしく思えます」


「そうだね、恋しいねえ……」


 森の土を踏む感触。濃密な緑の香り。並んで立つ台所、畑の収穫。両親の花と村の皆の笑顔を思い出し、シアは目を細めた。


「……帰ろっか」


「はい」


 フィルディードの手がシアの手を包み込む。ふたりは視線を交わし、微笑み合う。


 翌朝、朝食の席でシアは「そろそろ帰ろうと思う」と口にした。


「そうか、ではアメリディアに伝えなくてはな」


「送別会しようぜ、送別会。ご馳走並べてさ……もう会えないって訳じゃないけど、結婚祝いも兼ねて」


「あ……」


 村が恋しいけれど、仲良くなれた皆との別れに実感が湧き、シアはさみしさに言葉を詰まらせる。眉を下げたシアの顔を見て、ディアナがいたずらそうに笑った。


「なんだ、さみしく思ってくれるのか? シア」


「は、はい。それはもう……ここでの毎日も、とてもたのしかったから」


 シアの素直な言葉に、ディアナは思わず笑顔を浮かべる。ふふっと笑って、ディアナはシアに優しく語りかけた。


「私もずっとここに居るわけではない。そのうち国に帰るからな。きっと遊びに来ておくれ。ふたりのことを、いつだって歓迎するさ」


「——そういえば、ディアナはいつ頃までここにいるんだ?」


「夫から『凱旋の準備をする』と連絡が来たきりだからなあ……そのうち迎えが来るんじゃないか?」


「これだから長命種は」


「そういうお前はどうなんだ」


「再建計画で揉めてる」


 笑い、愉快げに話すディアナとレンカを、シアは目をぱちくりと瞬いて見つめた。レンカがそれに気付き、シアに視線を向けて目を細める。


「僕はそのうち聖域に行くよ。記憶に霞がかかるのが不便でしょうがないんだ。住民の条件をクリアしておきたい」


 連絡を入れるから魔道具をちゃんと持っておけよ、とレンカはフィルディードに言い聞かせる。フィルディードは分かった、とこたえ頷いた。シアは、繋がった縁は途切れずに、ずっと続いていくのだと身にしみて感じ、目の前の光景に口元を綻ばせた。




 その晩、食堂に足を踏み入れたシアは、驚きに目を見張った。テーブルの上には、肉に魚、大きな海老の入った魚介のスープ、色とりどりの美しいサラダ。ご馳走がずらりと並べられて、王たちがシアとフィルディードを笑顔で迎える。


「さあ、席に付きましょう」


 アメリディアが、シアの手を取って席に誘う。シアは「はい!」と頷き、くすぐったげに笑った。


「結局最後まで取り分け形式だったな」


 皆で席を囲み、レンカがしみじみとつぶやく。


「あら、いいじゃない。晩餐会なんて肩が凝るばっかりだわ」


「食事は楽しくて美味しいのが一番さ。なあシア」


「毎日とてもおいしくて、皆でわいわい食べるのが本当に楽しかったです」


 使用人にずらりと取り囲まれて、身分差を感じながらマナーに気を使う食事が続いたら、味がわからなかったかもしれない。皆そういった食事に慣れているだろうに、シアのためにと心を配ってくれたのだ。じんわりと、胸が温かくなり口元を緩めるシアに、「どれから食べる?」と優しく言葉がかけられた。


「海老食っとけよ、海老。気に入ってるならそのうち持っていってやるけど」


「この肉も美味いぞシア。ほら、よそってあげよう」


「もう、重いものばかりすすめて。野菜も食べるわよねシア。このサラダ美味しいわよ」


 皆シアに食べさせようと、次々に声をかける。大きな海老はあまりの美味しさにここにいるうちにすっかり大好物になっていて、綺麗に焼かれた赤身肉は驚くほど柔らかく、旨味が口いっぱいに広がる。美しい飾り切りが施された野菜は目にも楽しく、口の中をさっぱりとさせて、次の料理を引き立てる。


 食後にはフルーツや焼き菓子、かわいらしいプチフールが運ばれてきた。小さなケーキやタルトは目にも楽しく、色々な種類に目移りしてつい手が伸びてしまう。


 皆で笑い合い、和やかに会話を交わして——シアは美味しくて楽しい夕食を、心から堪能した。






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