これからのこと
シアはきょとんとアメリディアを見つめ返す。
「これから、ですか?」
「ええ、そうよ」
アメリディアは使用人にディアナとガイアスを呼ぶよう指示を出す。すぐに全員が集まり、茶の用意がされて、使用人が退室したあとディアナは話し始めた。
「シア、私たちはあなたに選択肢を提示できる。そのピアスを付けて、隣にフィルディードさんがいるのならば、あなたを聖域に留めておく必要はさほどないのよ」
アメリディアはシアを真っ向から見つめ言葉をつむぐ。シアは驚きに目を見開いた。
「この屋敷にこのまま住んでも構わないし、宮殿に住んでみたければ離宮を用意するわ。やりたいこと、行きたいところがあれば協力を惜しまない。ここにいる皆がそうなの」
アメリディアは周囲に座る王たちに視線を送る。王たちは次々と口を開いた。
「当然、長人族の国に来ると言うなら歓迎するぞ」
「霊峰ガイナスは豊人族に適さぬ環境ではあるが……それでも良いと言うならもちろん歓迎しよう」
「うちはまだ更地だけどな。来ると言うなら再建ついでに屋敷を用意するさ」
ディアナとガイアスは力強く頷き、レンカは肩をすくめる。ぽかんと口を開けるシアにアメリディアはふふと笑い、話を続ける。
「下町に家を用意してもいいし、もちろん豊人族の他国でも構わないの。なんなら一国だって用意できる」
フィルディードさんと同じことを言ったかしら、とアメリディアは軽やかに笑う。だが、実際フィルディードにもアメリディアにも、それが可能なのだ。特にアメリディアは豊人族の真なる王。アメリディアがシアを大公に任命し土地を任せると決めれば、誰ひとり反対の声を上げられない。——それに反対した瞬間、すべての豊人族の国の基盤が揺らぐために。
「今無理に決めなくてもいいの。何を望んでも。あなたの素直な気持ちを聞かせてちょうだい」
どうしたい? と、アメリディアは柔らかい視線でシアに問いかける。
「私は——」
シアは皆の顔をぐるりと見回し、ふんわりと微笑んだ。
「私はやっぱり、生まれ育った村に帰りたいと思います。皆さんに会えなくなるのはさみしいけど」
「そう言うと思ったわ」
アメリディアは高らかに笑う。他の王たちも、だろうなあ、と言いたげな顔で目を細めた。
「だってあなた、ここにいる間ずっと、それに今日街へ出たって、村に帰ることばかり考えているんだもの」
「その通りです……」
「さっき買ってきたのも種なのでしょう? 畑で育てるの?」
「はい。上手くいくかわからないけど、それもたのしみで」
くすくすと笑い続けるアメリディアに、シアは照れ笑いを浮かべる。アメリディアは一度ふうと息をついて、フィルディードを見つめた。
「フィルディードさんも当然そうするのね?」
シアはそのつもりでいたけれど、フィルディードはどう思うのだろうか、と少し心配になって、シアは隣に腰掛けるフィルディードにそっと視線を向ける。フィルディードはアメリディアに向かって、朗らかな笑顔を浮かべた。
「シアの側にいたい。それに、あの村で過ごせるなら、とても幸せだと思う」
「フィーくん」
思わずこぼれたシアの声に、フィルディードはシアに顔を向けて目元を緩める。
「僕はシアと居られるならどこでもいいんです。ですが、場所を選べと言われるのなら、僕もあの村がいい」
「……うん、フィーくん!」
フィルディードがシアの手に触れる。シアが指を絡める。ふたりはぎゅっと手を握り、幸せそうに微笑み合った。
「——わかったわ。実はそう言うかと思って、準備は整えているのよ」
アメリディアは頷き、一度言葉を区切って、透き通った声で宣言する。
「聖域を教会に寄進します」
シアは驚いて、勢いよくアメリディアに顔を向けた。目をまん丸く見開き、言葉も出ないシアに向かって、アメリディアは説明を始める。
「元々フィルディードさん自体、一国で抱えられるような存在じゃないのよ。ましてやその『世界』と『創造神の聖域』だなんて、どこの手にも余るの」
「私たちが協力を惜しまないというのは、そういう事情も含んでいるのさ。君たちがどこを選んでも、政治的に利用されず、何ものにも取り込まれず、自由であれるように私たちが手を尽くす腹づもりでな」
「聖域を選ぶなら、丸ごと教会に預けるのが一番手っ取り早い。あそこの頂点はラーティア様なんだぜ。元々清廉潔白な組織だが、もし何か起こったところでラーティア様を呼べばすべて済むんだ」
手の出しようがないぞ、とレンカは不敵に笑う。シアは想像を超えた事態に、あんぐりと口を開いた。
「『創造神の聖域』という寄進するに都合良い理由まであるのだ。フィルディードの行方にしたって、誰からも違和感を持たれない。一番手軽な方法で解決したものだな!」
ガイアスが豪快に笑う。王たちはみな、やれやれと言わんばかりに空気を緩ませた。
「認識が阻害されているとはいえ、あなた達の住む土地に領主やらなんやら、面倒なものは置きたくないのよ」
「ヨミが活動しているうちは下手に手を出すことも出来ず静観するしかなかったがな。うまく納めることが出来るなら、それに越したことはない」
「領主権はやっかいだからな。教会預かりなら安心だ」
ハッハッハ、と、軽やかな笑い声が上げられる。ぽかんと口を開けたまま、シアはフィルディードに顔を向けた。フィルディードは「大丈夫です」と力強く頷く。
シアは、よく分からないけど、信頼できる皆がそうだと言うならそれが一番なんだろうなあ……と、ぼんやり考えていた。








