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ただの村娘の私の元に、救世の英雄が恩返しに来たのですが  作者: 紬夏乃
第二部

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一夜明けて






「街歩きですか?」


 翌朝、朝食のあと一階の居間でくつろいでいたシアは目をまたたいた。フィルディードとは一緒にソファーに腰掛け、指を絡めて手を握り合っている。手を握ったり、腕を組んでみたり……術式効果の把握も含めて、色々慣れようとしている最中なのだ。


「せっかく首都まで来たのに、部屋に籠もりきりにさせてしまっただろ? ピアスを付けたし、フィルもいるんだ。出かけるなら魔道車を手配するよ」


 向かいのソファーに座ってティーカップを傾けながら、レンカがシアとフィルディードに「どうする?」と問いかける。


「観光かあ……」


 シアは空を見つめて考える。せっかく首都にいるのだから、少しは見て回りたい、という気もする。フィルディードは「シアが行くなら」と頷いた。「じゃあ、行ってみようかなあ」と小さくこたえて、シアはレンカに笑いかける。


「レンカさんもよかったら、ぜひ一緒に」


「僕も?」


 今度はシアの言葉にレンカが目をまたたく。『デートでもしてきたらどうだ』と提案したつもりだったのだ。デートではなく首都観光をするのなら、同行できた方が安心ではあるが。


 フィルディードは首都のどこに何があるかを大体把握している。方向感覚が優れているため道に迷うこともない。ピアスがあるからシアとはぐれることもないし、どんな状況下でもシアを守り抜くだろう。——だが、フィルディードには物事に対する興味がほとんどないのだ。『あの店がおいしい』とか、『この場所から眺める風景が美しい』とか、そういった情報は完全に抜け落ちている。フィルディードは観光の案内役には向いていないのだ。


 ふたりで行かなくていいのか、とためらうレンカに、シアは「ご迷惑じゃなければ」と首を傾げる。デートなんて考えもせず、すっかり観光するつもりでいるシアに、レンカは笑って「案内役を務めさせてもらうよ」とこたえた。




「どんなものが見たい?」


 魔道車が玄関に回ってくるのを待ちながら、レンカがシアに問いかけた。シアはうーんと悩み、考え込む。首都には何があるのかも、ちっともわからないでいるのだ。


「野菜の種が買えたらうれしいかなあ……」


 しばらく悩んでも、思いついたのはそれだけで。首を傾げて悩み続けるシアに、レンカは急に言われてもそりゃ困るか、と笑った。


「とりあえず下町の方に行くか。気になるものを見かけたら立ち寄ればいいさ」


 到着した魔道車に乗り込んで、レンカが運転手に「下町の大広場まで」と伝える。「かしこまりました」と返事が返ってきて、魔道車は滑らかに進み始めた。


 広い前庭を抜け、貴族街を走り、魔道車は進んでいく。シアは窓から外を眺めて、わあ、と感嘆の声を上げた。


 貴族街のゲートを抜けると、途端に人出が多くなり始める。建物は密接し、雑多に立ち並ぶ。街は賑やかで、活気にあふれていた。


 人通りの多い道を進み、魔道車は大広場の一角に停車する。魔道車を降りて、シアはぽかんと口を開いた。


「こ、こんな人、今日は特別な催しがあるんですか……!?」


「いや、いつもこんなもんだよ」


 レンカは何でもないようにこたえる。シアは途方に暮れたように左右を見渡し、フィルディードの手をぎゅっと握りしめた。


「フィーくん、手繋いでてね、ぜったい離さないでね……!」


「ぜったいに離しません、シア」


 微笑むフィルディードを見つめ、ピアスがあってよかった、とシアは心底安堵する。人の多さと建物の高さに圧倒されて、一瞬で迷子になってしまいそうだと眉を下げた。運転手に近くの駐車場で待つよう指示を出して、レンカが「こっちだよ」と歩き始める。シアはきょろきょろと周囲を見回しながら、フィルディードに手を引かれて歩き始めた。




§




「——それで、人に酔って早々に帰ってきたのね?」


「はい……」


 シアはぐったりとソファーに座り、「あんなたくさんの人……うちの村何個分か……」とつぶやく。アメリディアは「お疲れ様」とくすくすと笑った。


フィルディードが氷がたっぷり入ったお茶のグラスを差し出して、心配そうにシアを覗き込む。シアは差し出されたお茶を一気に飲み干して、勢いよく声を上げた。


「でも、本当にすごかったんですよ!」


 シアは目を輝かせ、弾んだ声を上げる。


「色んなものがたくさんあって、もう何を見ればいいかわからないくらいで。広場で芸を披露している人もいて、大賑わいなんです!」


 結局、少し街を歩いて、種苗店でいくつか野菜の種を買って、金物屋に入ってレンカの目利きで立派な包丁を買い……大広場に戻って大道芸を眺めたところで疲れ果て、屋敷に帰ってきた。それでも楽しかった、とシアは満面の笑みを浮かべる。にこにこと笑うシアを見つめ、皆ほっと表情を緩めた。


「この街を気に入ってもらえたようでよかったわ」


「はい!」


 楽しげなシアを微笑ましく見つめ、少し考えて……アメリディアはひとつ頷いた。


「丁度いいわね。シア、これからの話をしましょうか」


 そう言って、アメリディアは真っ直ぐにシアを見つめた。






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― 新着の感想 ―
のっけからありがとうございます。 これは…………( ゜д゜)ハッ! 待って!? ものすごいいちゃいちゃだと感じた私の心が曇っているのでしょうか。手とか手とか、慣れさせるとか!? 手を繋ぐことがこんなに…
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