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ただの村娘の私の元に、救世の英雄が恩返しに来たのですが  作者: 紬夏乃
第二部

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魔石の完成






「一度に一節が限界だな……」


 ゆっくりと焼き菓子を摘みながら、レンカがしみじみと呟いた。シアは茶のお代わりを注いでから、興味深そうにきょろきょろと辺りを見回す。ディアナがそれに気付き、「気になるものがあるか?」とシアに声をかけた。


「フィーくんに少し教えてもらったんです」


 シアは楽しげに、あれが術式の発動を抑えるもので、レンカさんにだけ言葉が届いて……と指さしていく。


「魔石を作るところなんて初めて見せてもらったから、もうすごく不思議で、珍しくって」


 照れ笑いを浮かべ、シアはディアナを振り返った。ディアナは、それはそうだろう、と軽快な笑い声を上げる。


「中々見る機会があるものではないからな」


「あんな大きなものをどうやって小さくするんでしょう?」


「それはフィルの仕事だよ」


 茶をすすりながら、レンカが気だるげにシアにこたえた。ディアナはマナ石を指さして、シアに説明を始める。


「マナで高圧力をかけるんだ。圧縮程度は一般的に三分の一、最高の設備と一流の技術者を揃えても十分の一が限界でね。それではまだ大きすぎるから、フィルディードが力技で圧縮する。だから今ここに、圧縮の設備はないんだよ」


「さすがに圧縮作業は危なっかしくて見せてやれないけどな」


 ディアナが突き出した手をぐっと握って見せる。へえ〜、と感嘆の息をはいて、シアはフィルディードを振り返った。フィルディードはシアに微笑みかけて、軽く頷く。


「ピアスにして問題ない大きさまで圧縮します。安心してください」


「お前、シア嬢に対してずっとその口調なんだな」


 レンカが呆れたようにフィルディードに向かって話しかける。フィルディードはどこか困ったように、視線をうろつかせた。


「シアに、少しでも『無愛想だ』と思われたら……と考えると、口調が変えられないままでいる。レンカと決めた口調には、成功の実績がある」


「お前本当に中間がねえな」


「私はフィーくんが皆に話しかけるみたいに話したって、気にしないんだけど」


 シアは楽しげに笑って、フィルディードを見つめた。再会したときに比べてフィルディードの声色が少しずつ変化していることを、シアは感じ取っている。


「変えたって変えなくたって、大丈夫だよ。いっぱい話をしていけたらそれが一番なんだから」


 シアの柔らかな提案に、フィルディードは「はい」と目を細めた。




 あまり休憩の邪魔をしてはいけないから、とシアたちは作業室を後にする。休憩の後にまた作業が続けられたらしく、ディアナとレンカは夕食の席で疲れた様子を見せた。


 翌日も、そのまた次の日も、魔石作りは進められる。シアは何度か、フィルディードと共に差し入れを持っていった。


 空いている時間、シアはパッチワークを作って過ごした。シングルサイズから、アメリディアに貰ったマットレスに合うサイズに、作る大きさを変えたのだ。大きいに越したことはないし、そんなことも、まあそんなこともあるかもしれないしね? なんてモゴモゴひとりで言い訳をしながら。


 術式のほぼすべてはシアの魔石に刻まれるらしく、フィルディードのものは先に出来上がったと聞かされた。刻まれる術式が同調と発動に限られるようで、対応し合う部分が同時に刻まれたのだ。フィルディードが圧縮し、先に出来上がった魔石を見せてもらって、シアは胸を高鳴らせた。


 フィルディードの手の上に乗る、シアの瞳の(すみれ)色の美しい魔石は、いよいよ近付いてきたという実感を持って輝いていた。


 ——それから数日後、ついにすべての術式を刻み終わった、とディアナとレンカがシアに告げる——




§




 作業室で、フィルディードが古代龍の角に手をかざす。角の内部には、びっちりと三重螺旋が描かれている。シアに見せたことがないほどの厳しい表情を浮かべて、フィルディードはゆっくりと指先を丸めていく。


 バチ、バチと、火花が散るようにフィルディードの周囲で閃光が走る。部屋の中に強い風が吹き荒れ、固定台に亀裂が走った。


(あの固定台、二度と使えねえな……)


 部屋の端で、レンカが達観したような表情を浮かべフィルディードが魔石を圧縮する様を見守る。床に描かれた陣は一斉に激しく明滅し、強圧の余波に効果がかき消されていく。古代龍の角は中空に浮かび上がり、どんどんとその大きさを縮めていく。固定台は圧力に耐えきれず、けたたましい音を立てながらひしゃげ、潰れた。


「相変わらず、凄まじいな」


 ディアナが呆れと感嘆の中間みたいな声音で呟く。レンカは返事の代わりに、ただ「ははっ」と笑った。


 ゆっくりと動かされていたフィルディードの指が、ぐっと握り込まれた。——ィイイン、と金属を擦り上げたかのような高音が鳴り響き、激しい光が収束する。風が止み、部屋に静けさが満ちた。


 フィルディードは固定台だった場所に手を差し出す。手のひらにころんと落ちたのは、不思議と透明度を持って煌めく黄金の小さな魔石。レンカたちを振り返り、フィルディードは口を開いた。


「出来た」


 と。






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― 新着の感想 ―
読みやすいのに読み応えたっぷりでした! ちょいちょいニンマリさせられて…… レンカさんとディアナさんの作業は緻密で苛烈極まるはずなのですが、ふしぎな穏やかさが感じられて(ごめんなさいw)楽しかったです…
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