いも掘り
シアはクワを手に畑を見回した。
「さあて、じゃあやりますか」
いものつる切りは事前に済ませてある。残渣は裁断して畑の隅に積んであった。収穫が終わったら、また畑にすき込むのだ。
いも掘り、大変なんだよねえ、と考えながら、シアは気合を込めて息を吐いた。畝の脇からクワを入れて、土ごと掘り返すから力が必要だ。クワを入れる位置を見誤るといもにクワを刺してしまうからけっこう難しい。
でも今回はフィルディードさんがいるから、と力仕事を前に余裕の笑みを浮かべたシアの前で、フィルディードが畑に並ぶいものつるの先をまじまじと眺めた。
「これを引き抜くんですね?」
「はい、そうですよ」
土を掘り返したら、つるを持っていもを引き抜くのだ。クワを入れるときの力加減を間違えて、いもが土ごと爆散しては大変だ。説明しないと、と前に出ようとしたシアの先で、フィルディードがおもむろにつるの分かれ目に指を引っかけ、大量の土ごとボゴンといもを持ち上げた。
(んん……ん〜、ン〜〜?)
知っているいも掘りと違う、と頭をひねりながら、シアはクワを置いて土の塊からいもを取り出す。フィルディードはまるで小石を拾うかのような気軽さで、次々といもを引き抜いていた。
普通、無理に引き抜こうとすれば土の中でいもが折れる。圧倒的な力で一瞬のうちに土ごと持ち上げてしまえば大丈夫なものなのか……とシアは初めて知る知識に空を見上げた。この先活かせる知識だとは思えないが。だってフィルディードにしかできそうもないし。
「すべて抜き終わりました」
「ああ、うん……うん」
「次は何をすればいいですか?」
「えっとね……」
フィルディードは、普通と手順が違うことに気付くことなく微笑んでいる。シアは、まあフィルディードさんだからなあ……と眉を下げて力の抜けた笑みを浮かべた。
「塊の中からいもを取り出してください。持ち上げてちょっと振ったらもう簡単にとれるんで、いもを折らないようにそっとやってくださいね」
「わかりました。じゃあ僕はあちらの端から」
「お願いします……あ、ざる! ざる持ってきてない!」
予定とは違う出来事に半ば呆然といもを集めていたシアは、慌てて立ち上がった。収穫用のざるも出していないし、まだいもを乾かすための帆布も広げていない。
「フィルディードさん、先に布広げるの手伝ってくださいー!」
「はい、わかりました」
シアは小走りに物置きへ向かって、フィルディードはにこにこと笑みを浮かべながらシアの後ろをついて行った。
大きな布を広げ、端に石を置く。それからシアは収穫用のざるを取り出した。収穫用のざるはとても大きくて、ちりとりのように片側が平らになっている。いもはたくさん採れるのだから、いちいち手で運んでなんていられない。大きなざるにためて、まとめて運ぶのだ。
シアとフィルディードはそれぞれざるを持ち、畑の両端からいもの収穫を始めた。塊でついている土を払いつるを切って、採れたいもをざるに投げ入れる。ある程度たまったら運び、帆布の上にざらっと広げた。
黙々と作業を続けて、たまに場所が近付けば顔を上げて会話を交わす。たくさん採れましたね、とか、こんなに大きいいもがありましたよ、とか。そうこうしているうちに収穫し終えて、シアとフィルディードは帆布の上にたくさん並んだいもを眺めて満足気に笑い合った。
「この後はどうするんですか?」
「しばらく乾かすんですよ。このまま袋に詰め込んだら腐っちゃうんです」
掘りたてのいもは水分をたっぷり含んでいるから、ちゃんと乾かしてからしまわないと腐ってしまう。追熟や保存のためには必須なのだ。シアはまだ高い日を見上げて、すごく早く終わったから、よく乾きそう、と笑った。
いもを乾かしている間に、今日出た残渣を細かく刻む。それを積んでいた残渣の山と混ぜて、空になった畑に撒いた。そうしているうちにいもの片面は良く乾いて、シアは帆布の上に座り込んでフィルディードに声援を送る。
「軽くですよ〜! 深く掘り返したら土の中で残渣が腐っちゃうから〜!」
「先日の力加減を覚えています。任せてください」
フィルディードは自信ありげに頷いて、クワで撒いた残渣をすき込んでいく。シアは助かるなあと思いながら、いもの土を軽く払っては裏返していった。今日は、畑の土は爆ぜなかった。
「この後はどうするんですか?」
すき込み終わり、フィルディードがシアの元へやってくる。シアはいもを裏返す手をとめて、フィルディードを見上げた。
「二、三日乾かすんです。もうちょっと乾かしたら、日陰に移しましょう」
小屋でもあれば取り込むんですけどね、と言いながらいもの土を払うシアに、フィルディードは「手伝います」と言って帆布の端に座った。シアはひとついもを持ち上げて、フィルディードに教えながらそっと土を払っていもを裏返す。ぽつぽつと会話を交わしながら、ふたり帆布に座ってのんびり作業を続けた。
「……追熟はどれくらいかかりますか?」
「一カ月ちょっとですねえ」
そうですか、と手に持ったいもを見つめるフィルディードに、シアは笑い声をあげた。待つ間に、また森に採取に行きましょうね、と約束を交わし、シアは晴天を見上げる。秋の色が、だんだんと深まっていた。








