きのこ狩り
長雨が終わりよく晴れた日の朝、シアは内扉の前でフィルディードを待ち構えていた。
「おはようございますフィルディードさん! さあ、今日は森に行きましょう!」
「おはようございます、シア。今日、何かあるんですか?」
扉が開くなり、シアは満面の笑みを浮かべて声を張る。フィルディードは目を瞬いてシアに尋ねた。
「雨が止んだこの時期にしか採れない、とってもおいしい茸があるんですよ!」
毎年の楽しみなんです、と声を弾ませて、シアはくるりと身をひるがえしダイニングテーブルに向かう。テーブルの上にはすでに朝食が並べられていた。
本日の朝食はトマトソースを塗ったバゲットとスクランブルエッグ。手早く朝食を済ませ、シアはフィルディードを急かすように家を出て森に向かった。
濡れ落ち葉の上を歩く。時折人と出くわしては、挨拶を交わし合った。今日ばかりはたくさんの村人たちが森に入って、皆茸を探しているのだ。
「やあ、フィルディードさん見つけましたか?」
「いえ、まだ」
「ははぁ、なくなっちまう前に見つけてくださいよ!」
皆一言二言話しては、のんびりしてはいられないと足早に去っていく。どこからか、「見つけた!」とはしゃいだ声が響いてきた。
「私たちも負けていられませんよ! こっちに行きましょう!」
シアは気合いの入った声で進行方向を指さした。
濡れた葉に足を取られないよう気をつけながら、でもできるだけ足早に森を進む。シアはキョロキョロと周囲を見回し、目当ての木を見つけて駆け寄った。
「この木です。この木の根元にしか生えない茸だから、目印なんですよ」
うろこ状にひび割れた樹皮の、曲がりくねった木。シアは根元の落ち葉を優しくかき分けながら、フィルディードに説明を続ける。
「似た木もあるんですけど、樹皮を嗅いだら煙っぽい匂いがするのが特徴なんです。あ、あった!」
シアが摘み取ったのは、平らで肉厚の、小ぶりな赤茶色の茸だった。シアはそれをフィルディードに見せて、声を弾ませる。
「これです、トロ茸! 根っこの脇から出るんです。まだあるかもしれません、フィルディードさんも探してください!」
「はい」
ふたりはしばらく黙って、落ち葉をかき分けトロ茸を探し続けた。
最初の木の根元を探し終えた後、ふたりは次の木を探して森を歩く。合間合間に、シアは見かけた森の恵みを摘み取った。赤くて酸味の強い森りんご、黒くて甘い森苺。正しい植物の名前は知らないが、村では皆そう呼んでいる。
かごにトロ茸と木の実がたくさん詰まった頃、シアは地面からひょろりと生える植物を見つけた。葉はなく茎だけが長く伸びていて、先には見るからに硬そうな、濃い緑色の丸い実が付いている。
「あ、膨らしの実!」
なかなか見つからないんですよね、と言いながら、シアは喜んではさみで茎を切り実をかごに入れた。
「必要なものですか?」
「うん、見つけたら必ず採るの。皮が真っ黒になるまでオーブンで焼いて、割って中身を使うんだけど……小麦粉や卵と混ぜたらふわふわのパンケーキや蒸しパンが作れるんです」
一緒に食べましょうね、とシアは嬉しそうに笑う。フィルディードも目を細めて「はい」と微笑んだ。
日の高いうちに家に帰り、シアはさっそく下ごしらえを始めた。トロ茸についた土や葉をさっと払い、ボウルに濃い目の塩水を作ってそこに漬け込む。虫だしをするのだ。
トロ茸の虫だしをしている間に森苺をきれいに洗い、ザルに上げる。それから鍋にたっぷりのぬるま湯を作って、塩水から上げたトロ茸をぬるま湯で丁寧に洗った。
ひとつ手に取ったトロ茸から軸を切り取り、串を刺す。軽く塩を振ってから、コンロの直火でさっと炙った。辺りにはまるで燻したような、茸のかぐわしい香りが広がる。
「焼きすぎたら縮んで固くなるから、火はさっとなんですよ。日持ちもしないから、すぐに食べるんです」
「保存はできないんですね」
「そうなんです。干しても焼いても燻しても、油漬けにしてもだめなんですよ」
採れる時期も、秋始めの雨が上がったわずかな期間だけ。シアは真剣な顔で焼き上がりを見極め、今だ! と思った瞬間串を火から離した。
「とってもおいしいんですよ。はい、どうぞ!」
シアはフィルディードに串を渡すなり自分の分を焼き始める。差し出された串を勢いで受け取ったフィルディードは、真剣に茸を焼くシアの横顔を見つめながら「ありがとうございます」と微笑んだ。
「やだ、待たなくてよかったのに! でも、ありがとうございます。さあ食べましょう!」
自分の分が焼けたと顔を上げたシアは、フィルディードが串を持ったままシアの分が焼き上がるのを待っていたことに気付き慌てた声を上げた。でも、揃って食べられることもうれしくて、シアは笑ってフィルディードに食べるよう促し、自分も串にかじりつく。
歯を立てれば表面のさくっとした歯ごたえ。中は驚くほど柔らかく、口の中で旨味たっぷりの汁がジュワっと溢れ出す。ほんのりと甘く、スモーキーかつ濃厚な香りと溺れるように広がる旨味に息を吐けば、トロ茸は舌の上でとろけるように消えていく。
「はあ……おいしい……」
「これは食べたことがありません」
シアはうっとりと呟き、フィルディードは目を瞬いて串に刺さった茸をまじまじと見つめた。
「採って、炙って、すぐ食べなきゃこの味にならないんです。さあ、どんどん焼きましょう!」
シアは満面の笑みでフィルディードを見上げた。今日ばかりはお行儀が悪いだとか、そういったことは棚上げだ。今頃はどこの家でも、皆で火を囲んでいるだろう。
シアとフィルディードはおいしさに舌鼓を打ちながら、台所に立って共にトロ茸を味わった。一緒に摘んだ森苺と膨らしの実で、ベリーソースのかかったパンケーキを焼こうか、なんて話しながら。
花粉症デバフがたいへんなことです。
今後しばらくの間、もし更新が遅くなったら、花粉の影響です…………








