第一章 第五話 Battle fanatic hermit
ー裏世界(座標不明)ー
「では私からいこう。 『山鳥の 遊ぶ磯辺の 十三夜』」
奴が俳句を詠み終えると、たちまち夜の海辺の気色が広がった。
どうやらこの空間は奴の五番勝負と連動しているようだ。
(…レベル高くないか?ま、まあ大丈夫…たぶん。)
「じゃあ次は僕だね。 『青空の ところどころに 冬うらら』」
しかし、フェルドラが俳句を詠み終えても、景色は変わることはなかった。
「…私の方に旗が上がったようだな。 説明はしない。
興が削がれてしまうからな。 では次にいこう。
…そうだな、琵琶にするとしよう。」
「お、おい、琵琶なんてできねえぞ、フェルドラ。どうにかしてくれ。」
「い、いや、そんな事言われても…」
結局少し触れたことのあるフェルドラが相手になったが、結果は明白だった。
(まずい。このままじゃ負けてしまう。…負けたらどうなるんだ?)
「なに、心配は無用だ。 貴様らが負けたところで俺は何もしない。
そのまま返してやるだけだ。 単なる俺の気まぐれよ。」
その時、空が割れて、周りにはなにもない異様な暗闇が広がった。
暗闇だったが、互いの様子ははっきりと見える。
そして、血眼になった大統領が奴を吹き飛ばした。
「来たか!待っていたぞ!」
吹き飛ばされた奴はダメージを負うどころか、
奇妙なことに満面の笑みを浮かべていた。
「…何のつもりだ。」
「私を顕現させたのはあの小僧どもだ。 文句なら奴らに言うがよい。」
半信半疑の顔で、大統領は二人に尋ねた。
「…そうなのか?」
焦りながらも、フェルドラが答える。
「い、いえ、違います、違います。
…心当たりはありますが、意図的にしたことではありません!」
そうか、といった表情で頷くと、大統領は奴をにらみ返した。
「そう気難しくなるな。 せっかく貴様に会えたのだから、少し手合わせするとしよう。」
そう言うと、奴はかかってこい、とでも言うように、軽く手招きをした。
(裏世界ではあらゆる概念が顕現してしまう。ならば...)
「八千代、八千代、悠久の刻を経て現れるその心...『一日千秋』」
大統領が発動した途端、歪んだ時空が奴に襲いかかった。
「ほう、なかなかやるではないか。」
その時、いち早く異変に気づいたのはスペトスだった。
「おい、あいつの周りおかしくなってないか?『理』に反してるように見えるぞ」
「どうしたんだ。頭おかしくなったのかい?」
奴はひし形の物体を取り出すと、とてつもないオーラを放った。
「この世の知識を統べる者、すべからく此処にあり...『虚無』」
(...! 上位概念...いや、「虚無」なんてあったか?)
すると、大統領の放った時空の歪みは消え去り、黒色の「何か」が大統領を拘束した。
奴はしばらく全く身動きの取れない大統領を見つめていた。
「もう終わりなのか? ...興ざめだ。貴様は少しは賢明だと思っていたが。」
その時、大統領を拘束していた「何か」が消えた。
「まあよい。 どちらにせよ貴様には後々会うことになる。
今回は軽い挨拶とでも思っておけ。」
そう言うと、奴は振り返って、その場から離れようとした。
逃がすか、と大統領は追いかけようとしたが、
3人はもうすでに表の世界に入りかけており、奴には干渉できなかった。
「では、『人格闘争』でまた会おう。我らの『実行者』よ。」
奴はそう言うと、完全に姿を消し、3人は最初いた本部屋上に戻された。
ー独立統治機関本部 会議室ー
「...なるほど。この古書を開いたら、奴が現れた、ということか。」
「おそらくそうかと思います。
この古書によると、はるか昔に『人格』という5つの概念が裏世界を切り開いて、
そこから使者のような者がこの世に送られた、とのことです。」
「でも、ここに書いてあるその『人格』って奴らの特徴とあいつとでは全然一致してない。
そもそも、3つも数字書いてあったんじゃあ、全く辻褄が合ってないじゃん。」
「そういえば、奴が言っていた『人格闘争』についてですが...」
「なにか心当たりがあるのか?」
「いえ、私が知るはずもありませんが...
建国時に、大統領は『人格闘争』に参加しているはずですよ?」
フェルドラのその言葉に、全員目を丸くした。