第一章 第二話 The evil in the concept
「あれは…哲人族…いやそんなはずはない。どういうことだ?なぜ?」
「なにか問題なのですか?」
「問題しかないだろ!なんであんなのが普通に実習で使われてんだ!
どう考えても学生実習のレベルじゃないだろ…全員倒れちまってるじゃないか…」
「ではこれは事故なんですかね?侵入してきたとか?」
「いえいえ、これは今日のために特別に用意したものですよ。」
後ろからおもむろにやってきたのは、この学園の学長、六波羅 空羅である。
気品の良さがひと目で分かるあたり、さすがは六波羅家といったところだ。
「有力な幹部候補である大将が今年で卒業するというのもあって、
彼の実力を大統領に見てもらいたいのですよ。
今年の大将には目を見張るものがありますよ」
そういって彼は闘技場の奥を見つめた。どこ見てるんだ?
と思ったら、なんとびっくり、瓦礫の中から学生が出てきたじゃないか。
低級とはいえ、哲人族の攻撃に耐えるとは。
正直この行事には飽き飽きしていたが、久しぶりに少しは面白そうだと思った。
ー闘技場ー
「もう終わりですか?久々に外に出れるから楽しみにしてたのですが…」
「うるせえ。貴様が想像の100倍強いから、調節をミスったんだよ。」
「ほう、いいますねえ。では私も全力を出さなければ美しくないというものです。
では、あなたの本気を見せてもらいましょう。…光を失ったすべての没落者よ、
ここに集いてその魂を奮い立たせよ…『挫折』」
その瞬間、赤みがかった暗闇が俺に襲いかかってきた。
(…!上位概念かよ…しょうがねえ、「あれ」しかないか…)
「…不滅大帝、六波羅光園、聖魂舞踏…『画竜点睛』」
(なっ、そんな馬鹿な…その術ははるか昔に途絶えたのでは…
くそっ、こんなもの防げるかあ!)
ー観客席ー
「おお、これはこれは。私も学長をやっていて始めてみましたねえ、あの類は。
なかなか面白いものが見れましたねえ、大統領閣下。」
…龍だと?どういうことだ?生命を生み出した?いやいやありえん。
私ですらあのレベルの生命を生み出したら瀕死状態になってしまう。
ということは別の概念なのか?それとも私と彼が同じレベルなのか?
しかし、あの哲人族を倒すと、その龍は消えた。り、理解できん。どういうことだ?
「私も初めて見ました。大統領はご存知でしたか?」
「いや、心当たりはない。…奴は只者ではないな。」
「そうですね。幹部選抜試験が楽しみになってきました。」
謎だらけだったが、他の業務の関わりで、彼に会うことは叶わなかった。
ー教室にてー
「何だよあの龍?なにしたら倒せたのか教えてくれよー」
「そうだよ〜隠すことないじゃん、大将ちゃんよ〜」
ああ、やっぱりこうなった。家系の秘技だから絶対に話せないんだけど…
渋ってたら、夜桜が来て、なんとか取り繕ってくれた。ああ、感謝感謝。
「何があるのか知らないけど、あなたもあなたで大変なのね。
てっきり悩みなんてないんだと思ってたわ。」
「そんな奴いないだろ。ましてや一応俺の家も名家なんだから、ない方がおかしいでしょ。」
「それもそうね。まあでも、少しは活躍できたんじゃない?」
「…そうだね。」
あれを使ってしまった以上、大統領からどう見られているかは心配で仕方がないが。
「終わったこと考えても仕方ないわ。次の授業始まるわよ。」
…なにもないといいのだが。
ー放課後ー
あー今日はなかなかに疲れたなあ。帰ったら一旦寝よう…ん、下駄箱に手紙?学長から?
ー放課後君に話したいことがある。学園の機密情報もあるから
他のものは連れてこないように。場所は…ー
うわー早速めんどくさいことになったあ。まあしょうがないや。
そう思って指定の場所に行ってみると、学長一人だけが立っていた。
…なんか違和感があるけど、気のせいか。
「今日の実習、素晴らしい結果であった。まさか龍を呼び出すとは。
私もなかなか見たことがないよ。そこで提案なのだが、
君がどんな方法でその術を使っているのか個人的に知りたくてね。
このネックレスのようなもので測定できるのだが、一度これをつけて
もう一度あの術をやってくれないかね。ああ、心配しなくても
ご家庭の許可は取ってあるよ。ほら、ここに。」
…確かに母の字である。印鑑も問題ない。
…秘技じゃないの?いや、母もそういう解析とかに興味があるのかな。
疑問に思いながらも、とりあえずつけてみる。
そこで俺の記憶は途切れた。
次に目覚めると、学園の下駄箱の前で倒れていた。
「おいどうした、貧血か?倒れてるからどうしたのかと思ったじゃん」
…夢?久々に使ったから疲れてるのかな?はっ、手紙は…ない。
しまったはずだが、カバンにも下駄箱にもなかった。…夢か。よかった〜
ー帝国某所ー
「夢ならばどれほど良かったでしょう〜
クックック、我ながらなかなかセンスのあるツッコミではないか?」
「ええ、ザイター様。ボケてで投稿したらたちまちバズることでしょう。」
「そうだろう、そうだろう?いやいや、滑稽なこと極まりないというものだ。」
そういて彼らはまた「観測」を始めるのだった。