序章 The Emperor
異世界ファンタジーです。
結構長くなりそうですけど、地道に書いていきます。
楽しんでいただけると幸いです。
万物は流転するーヘラクレイトスー
この世のすべての物事には流れがあり、周期がある。
我々はその無数の流れの中で生き、
その流れの大半は意識されることなく過ぎていく。
我々はその流れから逃れることはできないのである。
そして、この帝国もまた、その無数の流れの中にいた…
ー帝国暦一万年ー
「ハッピーニューイヤー!」
やけに明るい声だな。
彼は廻業帝国副大統領、ボン・ファルトリッヒである。
「落ち着け、お前らしくもない。」
副大統領を冷めた目で見ているのは、この私、
カルマイド帝国大統領、ガルドニフ・ヴェルトニッチである。
我々は今、帝国生誕一万年記念祭典の準備を大統領事務室で進めていた。
「だって、今日は記念すべき帝国暦一万年ですよ?」
「ったく、新年初日からこんなに忙しくて何が面白えんだ」
「ほら、顔が暗いですよ。もっと明るくしないと。大統領は英雄なんですから。」
「バカ言え、俺は何もしてねえぞ。」
ー記念祭典ー
「すげえ人数だな。何人いるんだ。」
私に答えたのは、幹部の一人、スペトス・カルティー。
「十万人はいるでしょうね。全く、新年くらい家で過ごせばいいのに。」
「それじゃあ祭典がさみしいじゃないか。最も、半分くらいはリメルド目当てだと思うけどな」
淡々とツッコミを入れたのは、幹部兼帝国軍総司令官のフロリス・セイン。
他にも、今日は幹部が全員集まっている。
幹部で最年少のフェルドラ・ハイドニフ。
気分屋のカロライナ・キャルミン。
アイドルのリメルド・レースキャニル。
狂人のシクロム・アンデッド。
音楽家のジリアス・アトスフィア。
虚無感満載なフレア・マキシム。
普段はめったに集まらない個性豊かなメンバーだが、今日は大統領令で全員集まっている。
個性が強すぎるせいか、互いに少し緊張して空気が漂う。
「そろそろ始まりますよ。」
副大統領の声とともに、帝国の十傑が舞台に出た。
拍手喝采の中、我々は手を振りながら応えている。
後ろの方にペンライトが大量に見えるが、まあ気にしないでおこう。
あいつのファン専用席作っといてよかった〜
風の噂では、溢れたファンを規制するのに苦労したとか。
やれやれ、誰のための祭典だか。
そして、舞台の中央に差し掛かったその時、轟音とともに電気が消えた。
「何だあ?また管制塔か?こないだ点検したばっかりだろ、リメルド」
「何いってんの、そんなとこ爆発するわけ無いでしょ、アンデッド。
こないだ点検したのは軍部の武器庫でしょ。」
その時、舞台のスクリーンに何者かが写った。
「私は人民開放部隊の長、豪園 安史だ。
今すぐこの祭典を取りやめ帝国制を解体せよ。さもなければ…」
「後でカロライナは執務室に来るように。」
絶望するキャルミンをよそに、私は答えた。
「断る。進行が遅れるからさっさとかかってこい。」
「愚か者が。ここの武器はすべてこちらの手にある。降参するのが身のためだ。」
「そう思うならさっさと撃って来い。」
スクリーンから奴が消えて、無数の銃弾やミサイルが飛んできた。
無意識に「解除」なしの「反転」でお返ししてやった。
「さすがは大統領といったところか。しかし、私の『火炎舞踏』は返せまい。」
「愚かな帝国制など、貴様もろども焼き尽くしてくれるわ!『火炎舞踏』!」
「解除」なしで「複合概念」を扱うとは。
まあ、「上位概念」を使わない時点で強さはお察しだが。
「他にもいるな。全員死んでもらうぞ。」
『孤立無援』
まあ、これが最適だろ。
奴らとその協力者は全員その場から消えた。
「この消えた奴らはいつもどうなってんだ?」
「真空の異空間に送られてる。大半のやつは5分も持たずに死ぬだろうが、
まあ実際に行ったことはないからわからん。」
「ということは、生きてる可能性もあるってことか?」
「まあ帰ってこれないけどな。
他のやつの死体でも吸収して強くなってたら、いつかは出られるかもな。
まあでも、こういう場面だったら、こうやってさっさと異空間に
送ってしまったほうが都合がいいだろ?」
「たしかにそうだな。」
さて、始めるとするか。
「全国民よ、今ここに反逆者が倒された。これこそ平和の祭典にふさわしい出来事と言えよう。
今まで我々は実力主義を掲げてきたことで、帝国の平和は長きにわたって保たれてきた。
さあ、今こそここに、この平和を喜び合おうではないか。」
再び大喝采があがった。
この祭典は無事終わりまで迎えることができ、まずは一段落、といったところだ。
しかし、なにかひっかかることがある。
〜何だあ?また管制塔か?〜
たしかアンデッドがこんなこと言ってた気がするが、「また」ってなんのことだ?
あいつが記憶を違えるのは珍しいが…
このとき私は知らなかった。
帝国暦一万年が意味すること。
ここから加速していく負のループについて。
私の「解脱」の物語が、ここに始まる。