第9話 長田への疑い
「まあ、コーヒーでもどうぞ」
場所を署内の空き部屋に変えてパイプ椅子にふたりは座った。どこからか温かなコーヒーを西宮が持ってきてくれた。
「4月だというのにやたらと冷えますな。桜も寒々しいですよ」
「ですねえ」
西宮の言うとおり、春だというのに温かさよりは肌寒さを感じる日の方が多かった。
「さて、何をお話ししましょうかね」
西宮の質問に舎六は
「被害者の佐賀野さんについて教えて頂けますか?」
「佐賀野春樹30才。死亡推定時刻は先ほど先生が仰ったように4月9日の20時から21時頃。死因は後頭部殴打によるものですな」
「長田さんの他に容疑者として上がっている方はいますか?」
「ガイシャ…佐賀野さんには恋人がいましてな。彼女もまあ参考人ですな。ただアリバイは曖昧ですが動機がない。引き続き捜査はしとりますがな」
「と言うと、長田さんにはやはり動機があるわけですか」
「おっしゃる通り。長田はガイシャに苛めを受けてたようです」
「わー」
和十は思わず口を挟んだ。和十も舎六にはいつも困らせられている。
「具体的にはわかりますか?」
西宮刑事は頷いて
「出版社の同僚たちに聞いてみたところ、原稿を渡さないは当たり前、ネチネチ嫌味を言ったり人前で怒鳴り付けたり、使いっぱしりのように長田を顎で使ってたみたいですね」
「うわ、ひど…」
佐賀野の所には何度か原稿を取りに行ったが、和十に対してはそのようなことはしたことがなかった。
「それじゃ恨んでて当たり前ですね…」
和十は思わず呟いた。
「そういうわけです。動機はある、あとはアリバイですよ」
「アリバイはあるんですか?」
舎六は聞いた。
「まあ、一応は。自宅にいたと言い張っとるんですがな。しかし証人というのが長田の妻で。夫に有利な証言くらいするでしょう」
「そうですか…」