第7話 長田春樹
光陰出版を訪ねると編集者らしき人物が迎えに出た。
「やあ、和十くん、ご苦労さん。原稿ありがとね。他の子だと舎六さんなかなか出さないからねー」
「いやいや、僕の時もなかなか出してくれませんよ」
「すんなり出してくれてる方だよ、この人にしては。気に入られてるね」
「え」
あれ以上いじめられてるのか他の子は…。
和十はそっと舎六を盗み見た。当の舎六は平気な顔で
「長田さんおひさ~。元気してました?」
編集者…長田春樹は苦笑しながら
「先生がもっと簡単に原稿を渡してくださればストレスもないんですけどねー」
「あははは」
舎六は軽く笑い飛ばした。
「で、今日は遊びに来てくれたんですか?」
長田は暗にふたりの用向きを聞いた。遊びに来させられるほど暇ではない。
「実は佐賀野さんのことで…」
和十が答えると
「あー、佐賀野さんかー。警察に聞かれてびっくりしたよ。こっちは亡くなったことも知らなかったからね。おふたりも?」
「そうですね~はは」
まさか容疑者として取り調べを受けていたとは言えないので、和十はかごまかした。
「僕が原稿を取りに行っていた作家さんのひとりだから、やっぱり編集の担当も長田さんだったんですか?」
「ああ、私だね」
和十の質問に長田は答えた。
「だから警察に色々聞かれたんだろうねー」
「知り合いにはひと通り聞くみたいですね」
「先生もですか?」
「ええ、何度も同じことを聞かれて辟易しましたよ」
「ああ、4月9日の20時から21時頃何処にいたかとかですよね」
「それは何度も聞かれましたね」
「ですよね。もう犯人扱いですよー」
「ですねー、それから佐賀野さんに恨みのある人を知らないかとかも聞かれましたよ」
「恨みねぇ~。そんなの知りませんよね全く」
「ですねえ、あはは」
舎六と長田のやり取りをポカンとして和十は見ていた。よくまあありもしないことをペラペラと…。
「あ、長々とお邪魔しました。和十くん、おいとましようか」
「へ?あ、はい!」
突然舎六に話をふられて間の抜けた返事をしてしまった。
「ああ、じゃあまた、原稿お待ちしてますよ先生」
「耳が痛いなぁ」
はは、と軽く笑いながら舎六は和十と光陰出版を後にした。
しばらく行ったところで和十が口を開く。
「先生、僕には何が何だか…」
「そうかい?」
「はい。あることないこと何であんなに喋ったんですか?」
「ああ、それはね~、同じ立場だと思われた方が色々と喋ってくれるかと思ったんだよ」
「なるほど」
和十は素直に感心した。
「和十くんのお陰で死亡推定時刻がわかったよ。それに話が聞きやすかった。和十くんの人柄だね」
「いやぁ~」
えへへ、と和十は頭をかいた。
「ところでこれからどうするんですか?」
「そうだねぇ。私たちは色々と知らないことが多すぎる。情報を集めよう」
「情報ですか」
「うん、とりあえず西宮さんに聞いてみようか」
「西宮さん…て! 刑事さんじゃないですか! 教えてくれませんよそんなの!」
「まあまあ。行ってみないとわからないじゃないか」
「はあ…」
「手土産はクマのぬいぐるみで良いと思う?」
「なんで?!」