第22話 すべては終わり
「六等星かぁ…」
舎六と警察署からの帰り道、和十はぽつりとこぼした。
「友子さんはずっとそうだったんですね、きっと。とても長い間」
「そうだね。きっととても孤独な人生だったのだろうね」
和十自身は幸福な生まれ育ちであろうに、そうでない者たちに寄り添えるところは、彼の美点だと舎六は思った。そしてそれは彼らの救いになるだろう、とも。
4月も半ばにさしかかり、桜はもう葉桜になっていた。すぐに新緑の美しい季節がやって来るだろう。
「僕、友子さんにたまに手紙を書こうと思います」
「そうかい」
舎六は微笑して
「良いと思うよ」
とだけ言った。
和十はうーん、とノビをして
「何にせよ事件が解決して良かったです。これでやっと普通の生活に戻れますよ」
「和十くん、お疲れさま」
和十はにこりとして
「先生も、お疲れさまでした」
同じその頃、都内某所でひとりの男が辺りを窺いながらスマホで話していた。
「はい、やっと見つかりました。ええ、作家なんかになってましたよ、ふざけた名前で。ええ、ええ。もちろんです。必ず連れ戻します」
男は通話を切った。ふ、と笑うとやけに酷薄そうな口元になった。
「やれやれ。お前にはいてもらわなくちゃ困るんだよ。必ず戻ってもらうからな…清明」
「くしゅん!」
「先生、風邪ですか? 今日はあったかいのに~」
「でも昨日は寒かったし」
なんだか子供の言い訳みたいで、和十は吹き出してしまった。
「風邪引いたから原稿待っててもらってもいい~?」
「それはダメです」
「和十くん、意外にケチだよね」
「先生がルーズ過ぎるんです!」
「私はルーズなんじゃないよ。原稿はできてるけど渡さないだけ」
「もっと酷いじゃないですか!」
「あははは~」
舎六と和十は笑いながら青空の下を歩く。どこまでもこの平穏が続いていくかのように、小鳥たちはさえずっていた。




