第21話 六等星の憂うつ
「長田さんの奥さんが犯人だったんですね…」
長田友子を逮捕したと舎六たちに西宮から連絡があった。友子が海外へ逃亡する前になんとか間に合ったようだ。和十と舎六は警察署の廊下で立ち話をしていた。
「先生は友子さんを疑っていたんですか?」
「うん、編集者の長田さんのアリバイを奥さんが証言したと聞いて、奥さんの指に指輪がないのを確認してからね」
「え、そんな前からですか?」
舎六は頷いて
「仲が悪いのにわざわざアリバイを立証するような証言をしたというのは、もしかしたら自分のアリバイを作りたかったのだろうかと思ってね。」
和十は感心した。同じものを見、同じことを聞いてもこんなに違うものか…。
「長田さんはその時間は結局何をしてたんでしょうね?」
「長田春樹は仕事が遅くまで残っていて、別の場所までで移動中だったようですね」
声がした方を見ると西宮刑事が歩いて来るところだった。
「あ、西宮さん、お疲れさま~」
舎六がヒラヒラと手を振りながら迎える。
「やあどうも。先生のお陰で無事に事件は解決しましたよ」
「それは良かったです」
「でもなんで長田さんは嘘のアリバイなんか言ったんでしょうね?」
和十が聞くと
「電車で移動する途中ですから、証言者がいない。これ以上疑われて時間を取られたくなかったというところのようですな」
「そういうことだったんですね」
「近藤恵はちなみに佐賀野が死亡した後に居合わせてしまっただけのようです。亡くなっている佐賀野を見て、余計なことに巻き込まれたくないと思って逃げたそうですよ」
西宮は苦笑ぎみに言ってから
「ところで先生はなぜ長田友子が逃亡するとわかったんです?」
西宮は舎六に聞いた。
「友子さんの家に上がった時にキャリーバッグからパスポートが見えていましてね。もしかしてと思ったんです」
それからふと
「友子さんはどんな様子ですか?」
「ああ、観念したのか素直に自供してくれましたよ。ただ…」
思い出したかのように西宮は
「自分は六等星だ、なんて言うんですよ。消えても誰も気にしない、誰も気がつかない。誰からも必要とされない、まるで六等星のように人の目にうっすらしか映らない存在なんだ、なんてね」
舎六は少し目を伏せて
「そうですか…」
と呟いた。
「そういえば」
舎六は疑問だったことを思い出した。
「友子さんは何故トロフィーを凶器のように見せたのですか?」
ああ、と西宮は頷いて
「佐賀野の大切にしていたものを汚したかったんだそうです。友子さんよりトロフィーの方をよっぽど大切に扱ってたようですよ、佐賀野は」




