第19話 真相
「宮さんには今、向かってもらってます。でも、本当にあの人が犯人なんですか?」
西宮の傍にいつもいる若手刑事…名を綿貫といった…は舎六に質問した。
「先生、僕も何が何だかわからないんですけど…」
和十もまた疑問を口にした。
「うん、当然だよね。順番に説明していきますね」
舎六はふたりに向かって話し始めた。
「まず、犯人は佐賀野さんを灰皿で殴打した。佐賀野さんが倒れると、灰皿の血痕と指紋を拭き取り、トロフィーを運んできて佐賀野さんの血をなすりつけた」
「なんでそんなことを?」
綿貫の当然の質問に舎六は
「それは犯人に聞いてみないとわからないけれど…トロフィーに血を付けることに意味があったのかもしれないね、もしかしたら」
「なるほど…」
舎六は続けて
「犯人はそのまま立ち去ろうとしたと思います。ところが和十くんが玄関から入ってきてしまった。仕方なく東側の窓から外へ飛び降りると、和十くんがリビングに行っている間に玄関からそっと自分の靴を取って何食わぬ顔で履いて帰ったのでしょうね」
「佐賀野さんはその後に意識を一時取り戻した…」
「そう、そしてキーボードに犯人の名前を残したんです」
「でも先生、数字に該当する平仮名を打ってもおかしなことになりましたよ?」
和十の質問に舎六は頷きながら
「そう、私はてっきり佐賀野さんが平仮名入力をしているつもりでキーボードを打ったのだと思ってしまったんだ。でも実は佐賀野さんはローマ字入力のつもりで打っていたんだ」
「つもりって…ローマ字入力のつもりなら、キーボードの数字そのまま打ってることになりますよ? 数字が犯人の名前だったんですか?」
綿貫の疑問に和十も頷いた。
「そうですよ先生。60626なんて名前になってないです」
「そうなんだよ。私も色々なキーを押してみてやっとわかったんだ」
そして借りていたノートパソコンを開くと
「上の方のキーボードに数字がある。だからてっきりこれを打ったんだと思ってたんです」
「違うんですか? でも、他に数字なんて…」
「ええ、私も知らなかったんですが、ファンクションキーを押しながら色々なキーを叩いてみたんです。そして真ん中辺りのキーを押した時に…」
「あ!」
舎六がファンクションキーを押しながらキーボードの中程のキーを幾つか叩くと、数字が画面に映し出された。
「これは…」
「え、なんで!?」
綿貫と和十が驚きに声をあげた。
「ファンクションキーを押した状態だと、一部のキーがテンキーのような役割を果たすようですね」
「ほんとだ、テンキーと同じような数字の並びだ」
綿貫は自分でパソコンを触ってみて頷いた。
「そう、Mが0、Jが1、Kが2、Lが3、Uが4、Iが5、Oが6、7が7、8が8、9が9」
「知らなかった。そんな風になるんですね」
「でも、佐賀野さんは何故わざわざファンクションキーを押しながらローマ字入力なんてことをしたんでしょうか?」
綿貫が聞くと舎六が
「本人は押したつもりはなかったんでしょう。最後の力を振り絞ってパソコンに触った時、左手でファンクションキーを偶然押してしまっていたのでしょうね」
「そうか…」
「こうして考えていくと60626と打たれていたのは実際には「OMOKO」と打っていたことになります」
和十と綿貫はキョトンとした顔になった。
「これじゃあ人の名前になってませんよ?」
「ええ、このままではね。ここでキーボードに残された血痕を見てください」
そう言って舎六は先ほど鑑識の人間から受け取ったキーボードの血痕の写真を見せた。
「血の付いた指紋が、ファンクションキー、O、M、K、そしてもうひとつ、Tのキーにも付着しています。ファンクションキーを押した状態だと、Tを押しても何も映りません。佐賀野さんが本当に書きたかった名前はTOMOKO…友子、つまり長田友子さんの名前だったんです」




