第17話 急転直下
警察署を訪れると西宮が迎えてくれた。舎六は早速
「リビングにあったパソコンのキーボードに血痕があったと仰ってましたよね」
「ええ。殴られて倒れた後に立ち上がろうとして、リビングにあったパソコンに指がかかったようなんですよ」
「血の跡がどのキーボードにあったかを知りたいのですが…」
「うーん、鑑識に聞いてみますわ。ちょっとかかりますよ」
「ありがとうございます、お願いします」
西宮は若手に鑑識へキーボードの血痕について聞くように指示した。
「それと先日教えていただいたパソコンの数字なのですが」
「ああ、あの意味不明な」
「貸金庫や口座番号、電話番号の可能性はありませんか?」
西宮刑事は頷きながら
「わしらもそれを考えて全部あたったんですが、どれも外れでした。貸金庫はなし。そんな数字の口座もなし。電話番号もなし、ですわ」
「全部もう調べてたんですね! 凄いなぁ」
和十の素直な感嘆にベテラン刑事は照れたように
「いやまあ、仕事ですからな」
その後捜査に戻ると言って西宮はどこかへ行ってしまったので、舎六たちは事務でパソコンを借りて色々と試すことにした。
「先生、パソコン使えるんですね」
「うん、一応」
「原稿がいつも手書きなので使えないのかと思いました」
「なんか手書きの方が作家!って感じがするでしょ? 読みにくい文字にすれば編集さんを泣かせられるし」
「…」
「冗談だよ?」
にこりと笑って言う舎六に、和十はどこまでが冗談なんだろうかと考えてしまったのだった。
「犯人の名前でも残しておいてくれれば良かったのになー」
「名前、か」
舎六はポリポリと頬を掻きながら呟いた。
「そうかもしれないよ」
「え?」
「でもこれ、数字ですよ?」
「そうだね。それならパソコンのキーボードの数字の所を見てみようか」
「数字の所って…あ!」
「うん、ひらがなが書いてあるね」
「そうか、ひらがな入力!」
「当てはめてみようか。6は「お」、0は「わ」、2は「ふ」」
「60626と続けると…「おわおふお」?なんじゃこりゃ」
「あはははははは」
和十が思わず間の抜けた声を出したのがおかしかったのか、舎六は笑いこけていた。和十は少しムッとして
「先生! 笑ってる場合じゃありませんよ! これじゃあなんにもわからないです」
「うん、そうだねぇ」
笑いすぎて目元を拭う舎六を恨めしげに見ながら和十は文句を言った。
その時、急に署内が慌ただしくなったようだった。
「どうしたんでしょうね?」
「そうだねぇ」
ひょいと部屋の扉から首を出した舎六は、西宮のミミズメモを解読してくれた若手刑事の姿を見つけた。
「やあ、何かあったんですか?」
声をかけるとその刑事は駆けてきて
「あ、舎六先生! 近藤恵のアリバイが崩れたんです。これから緊急逮捕に向かうところです!」
「近藤恵は確か自宅にいたと言ってましたよね?」
「それが、死亡推定時刻近くに被害者宅から出てくるのを目撃されていたんですよ。しかも他に男がいたようで、それが動機ではないかと」
「おやまぁ」
それでは、と急いでその刑事は去っていった。




