第16話 事件の整理
「和十くん、少しお茶でもしようか」
長田邸を出たところで舎六が言った。
「わ!嬉しいです! ちょっと休みたかったんですよね」
「この辺にお店あるかなあ?」
「あ、この辺ならいいお店がありますよ」
和十の案内で歩くと少し懐かしい喫茶店、今ならレトロと呼ばれるような純喫茶のお店が佇んでいた。ふたりはソファに腰かけると
「ちょっと事件を整理してみようか」
「そうですね、なんだか頭がパンクしそうですよ」
「あはは~。だよね。さてと、まず被害者は佐賀野さん。リビングで倒れているところを和十くんが発見」
「はい。参りましたほんとに」
「死亡推定時刻は4月9日の20時から21時。死因は後頭部殴打によるもの。ここで謎がふたつ。ひとつは凶器のこと。何故犯人は灰皿を凶器にしたにも関わらずトロフィーに血をなすりつけ、あたかもトロフィーが凶器であるかのように被害者の傍に置いておいたのか」
「そうですよね。灰皿が凶器だとまずかったんでしょうか?」
「特別な灰皿というわけではないと西宮さんは言っていたから不思議だよね。もうひとつの謎はパソコンに残された数字の羅列。西宮さんがくれたメモによると60626という数字だ。何かの番号なのか、それとも暗号なのか」
「番号だとしたら、なんの番号でしょうね?」
「ロッカーでも車のナンバーでもないと言っていたね。他には何かあるかな?」
「うーん」
和十と舎六は黙考し始めた。
「貸金庫のナンバーとかどうですか?」
しばらくして和十が沈黙を破った。
「なるほど、そうかもしれないね。今度西宮さんに調べてもらおう。可能性は低いけど、電話番号を書きかけたという可能性もあるかもね」
「もし番号ではなくて暗号だとしたら、わからないですよね」
そうだね、と舎六は頷いて
「ただ、自分で言っておいて何だけど、死の間際にわざわざ暗号で何かを伝えるとも思えないんだよね」
「それもそうですね…」
舎六は珍しく考え込んでいた。和十は邪魔をしないようにそっとコーヒーをすすった。
「和十くん」
「はい!?」
少しぼんやりしていた和十に舎六が声をかける。
「西宮さんの所に行ってみよう」
「え。またですか?」
「うん。見落としがあるかもしれないし捜査が進展してるかもしれない」
「なるほど、そうですね!」
和十の素直さに舎六は微笑んだ。




