第15話 長田友子
長田の自宅は佐賀野の家に比較的近かった。舎六はインターホンを鳴らして
「こんにちは、作家の家並舎六と申します」
応答はすぐにあった。
「あ、主人の担当の作家さんですね。どうぞ」
部屋に通されると
「いつも主人がお世話になっております」
「いえいえ、こちらこそ。いつも原稿をお待たせしてしまって申し訳ありません」
ほんとにねー。
和十は心の中で呟いた。
「あの、こちらの方は?」
「僕は得田和十と言います。バイトで長田さんにはお世話になってます。得する得に田んぼの田。あんまり得してないですけどね、ははは」
「まあ、ふふ。失礼しました、どうぞお掛けになって」
ふたりはリビングのソファに腰を下ろした。旅行に行く所なのか帰ってきた所なのか、着替えやら小物やらが脇に置いてあるキャリーケースから覗いていた。
「散らかっててごめんなさいね」
「いえ! 僕の部屋より断然きれいです!」
「まあ」
クスクスと長田友子は笑った。多少あったであろう警戒心を和十はこともなく消してしまったようだ。本人は無意識なのだろうが。
「長田にご用かしら? 夜まで戻りませんが…」
「長田さんにお聞きしました。普段の激務に加えて警察に疑われて大忙しだと。奥さまも大変ですね」
舎六が気遣うと
「そうですねぇ…警察には何度も同じことを聞かれましてね…。長田は9日の20時から21時には家に居りましたとその度に説明致しました」
「警察というのはどうもそのようですねぇ。ちなみにその時間、何をなさってたか憶えていらっしゃいますか?」
「主人は食事をしながらテレビを見ておりました」
「そうですか~。えと、奥さまは?」
「え?」
自分のことを突然聞かれて驚いたようだ。
「私は…確か洗い物を」
「ああ、そうですよね、夕食後だ。そういえば、佐賀野さんが亡くなられたことは何でお知りになりましたか?」
「さあ…なんでしたか…憶えておりませんわ」
「そうですか。色々と不躾に聞いてしまって申し訳ありません。こんなショッキングな出来事が身近で起きるなんてびっくりですよね…」
「そうですわね…とてもショックでしたわ…」
「知り合いが突然亡くなるってビックリしちゃいますよね。僕も何が何だかまだ混乱してますよ」
和十は少し涙ぐんだ友子になぐさめの言葉を掛けた。
(僕なんか犯人扱いまでされたしね!)
根に持つタイプのようだ。
「長々と失礼致しました。そろそろ帰ろうか、和十くん」
「あ、はい」
友子は玄関まで見送りに来た。玄関から出ようというところで舎六は何か言いかけたが、
「いえ、なんでもありません。それでは失礼します」




