第13話 近藤恵
やがて佐賀野の恋人…近藤恵…の部屋に到着した。恵はマンションに住んでいた。
「さてと、どうしようかね?」
「?」
「いきなり押し掛けても答えてくれないよね。なーんにも考えてなかった」
「…はい?」
ここまで来て何も考えてなかったとは…。さっきの感動を返せ。
和十はこっそりと心の中で呟いた。
「まあいいや」
「あ! ちょっと先生!」
焦る和十をよそに、舎六はさっさとインターホンを押してしまった。
「…知りませんよもう」
数回押したが留守のようだった。
「う~ん、いないみたいだねえ」
どうしようかとふたりで顔を見合わせていると
「うちに何かご用?」
色気のある女の声が後ろからかかった。舎六は振り返ると
「近藤恵さんですか? 作家の家並舎六と申します」
「あの舎六さん?」
「はい、そうだと思います」
舎六は一応名の知れた作家だ。恵はそのことを言ったのだろう。
「どうぞ。きれいな所でもないですけど」
「ありがとうございます」
礼をいって舎六と和十は恵の部屋に上がった。
「佐賀野さんのこと、驚きました。強盗だと聞きましたが…」
(へ!?)
舎六の言葉に和十は内心驚いた。先ほど舎六自身が強盗説を否定したばかりなのだから。
「ああ、新聞にはそんな風に載ってたわね。…どうぞ」
ホットコーヒーをふたりの前に置いて、恵は自分も向かいのソファに座った。
「違うんですか?」
「そうねえ…」
恵は足を組んで吸っていた煙草の煙を吐き出した。
「警察は誰でも疑ってかかるからわかんないけど、アタシは自分が特に疑われてるように思えたわ。佐賀野が亡くなった時にどこにいたかなんて聞かれたしね」
「そうでしたか。新聞には4月9日の午後8時から9時頃となっていましたね」
「そう、その時間のことを聞かれたから実際そうなんでしょうね。アタシはここにいたって言ったけど、証人はいないからねぇ」
「あ~なるほど、それで疑われてるわけですか」
「たぶんね」




