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ロイドVSミゲル

 新生パーティであるイーターは、現時点では特定の目的を達成するために結成した集団ではない。


 ギルド登録をする利点を挙げればいくつかあるが、そのなかでも特に僕が着目しているのは一般人には公開されない情報の開示だ。


 ギルドにはランクが存在する。最低のEから最上のSまで。伴って開示される情報量も異なる。結成初日の僕たちは最低のランクだが、それでもすぐに知りたいものを手にすることができた。


 この街にいるギルドの名称だ。


 ギルドにもいくつかの部門が存在する。鍛治や商人などといったものから、主流の冒険者など。主流とあるからには存在する数も多いが、高ランクのギルドとなれば別だ。


 名簿を見せてもらい、この街にいるとは知っている。街の支部に立ち寄れば依頼を受ける仕組みになっているし、依頼を受ける際には所有している身分証明書としてギルドカードを提出する義務がある。僕は依頼を受けようか迷っている仕草をしながら、名簿にある名前を見つけた。


 A級ギルド、赤爪(あかづめ)。旅人を装って僕に接近した、ミゲルたちの本当の姿。


 なぜ判明したのかといえば、リーダーの名前も記載されるからである。幸い、ミゲルという名前は他にはいない。これで決まったも同然だ。


 依頼にもランク付けが義務化されているので、同じ依頼を別のギルドが受けないよう徹底した管理が行き届き、また帳簿にも必ず記載されている。ミゲルたちはA級ギルドでありながら適当なDからEランクの依頼を受け、すぐに終わらせて僕たちの村に来た。依頼された場所もかなり近い。


 そして依頼が完了したら報告をするのも義務。報酬を受け取れない。とはいえ、あのランクのギルドには不釣り合いな報酬額ではある。嫌な予想ではあるが、そんな酔狂で暇を持て遊ぶほどの貯蓄があるのだろう。


 奴らはきっと、僕のように身寄りのない子供を狙って、ダンジョンに置き去りにして反応を楽しむとかいう邪悪な趣味をしているに違いない。


 だから僕は、こうして街を歩く。彼らの反応を逆に楽しむために。


 そして、ついに待望の瞬間が訪れた。


 ザワッと空気が鳴る。


 全員が一様に同じ反応を示す。高ランクのギルドが堂々と道を闊歩した際に発生するリアクション。


「おや………おやおやおやぁ?」


 ………来たな。


 声でわかる。僕たちの背後。不愉快な笑い声。


「ロイドくんじゃぁん? あれ? なにしてんのここで?」


「ご無沙汰してます。と言っても一週間も経ってないですけど。………ミゲル」


「おいおい。いきなり呼び捨てにすることはないだろぉ?」


 やっぱり現れたミゲルは、周囲の畏怖と畏敬を表する眼差しのアーチを潜って、揚々と僕たちに接近する。


「あなたなんて呼び捨てで十分だ」


「嫌われたもんだねぇ」


「自覚があったんですね」


「そりゃ、まぁね。それにしても驚いたぜ。よく生きてたなぁ」


「………よくも………僕に向かってそんなことが言える!」


 ダメだ。抑えようとしていた感情が爆発する。


 ミゲルから施された恩は忘れない。でも、それを上回る裏切りも忘れられない。


「答えろミゲル。なんであんなことを?」


「あんなこと? あー………あっ、思い出したぁ。お前、あまりにも使えないからクビにしたんだよなぁ。でも当然だろ? 誰もが命をかけるダンジョンで、新参者のお前は戦いでなにもしないし。そんなお荷物はいらないし。第一、鬱陶しいんだよ。無力のくせに自分はなにかができるって主張してさ。ダンジョン攻略はオママゴトじゃないんだぜ? お前みたいな雑魚がしゃしゃり出てなにができる? どうしてもって言うから同行させてやったのに。お前みたいな雑魚はな、俺たちに命を捧げるくらいが丁度いいんだ。お前みたいなのの代わりはいくらでもいるっていうのに、烏滸がましいんだよ」


「僕はもう、あなたの言う雑魚じゃない!」


「どうかな。世界にはお前みたいな奴が溢れてるぜ? 自分には実力があるだのと妄想してる馬鹿。ほら、見てみ? ここらにも腐るほどいるだろ? お前のお仲間さ。A級にもなれない雑魚ギルド。こいつら、毎日無駄に時間を過ごしてるだけで達成感を味わってるんだぜ? 同じ穴の狢だな」


 気分が高揚しているのか、ミゲルは僕だけではなく、僕たちを見ているギャラリーさえも嘲笑する。


 途端に空気が一変した。高ランクギルドと低ランクギルドの諍いに「あいつ死んだな」と僕を憐れむ目で見ていた全員が、殺意を湛える睨みをミゲルに叩きつける。思わず大勢の味方を得た。


 が、誰も反論を唱えようとしない。それだけ高ランクギルドの名が優れている証拠だ。勝てるはずがないと、喧嘩を売る真似などしない。ただ見ているだけ。


 でも僕は見ているだけじゃない。逃げ隠れするのは、もうやめたんだ。


「ギルドを馬鹿にするな! ここにいる全員、必ず胸に熱い思いを抱いているんだ! ミゲルだって最初はそうだったでしょう!?」


「忘れたね。そんなの。俺らはさ、ほら、寝てるだけで金が入ってくるから」


「けどあなたの野望は達成しなかった。僕をダンジョンで見捨てて、村を崩壊させる企みも叶わなかった。山賊なんて来なかった!」


「ああ、あれ? いやぁ、山賊連中も馬鹿でさ。報酬の件で交渉決裂したし、そしたら襲い掛かってきたから皆殺しにしたんだよ。愉快だったなぁ。ダンジョンで置いていかれたお前みたいな顔してたんだよ。笑えた」


「この………人殺しがぁ」


 人を殺せば罪となる。が、山賊という犯罪者であれば減刑される。高ランクギルドとあれば、後ろ盾もあるだろうし、さらに減刑されて厳重注意で済まされるのかもしれない。彼らにとっては馬耳東風であっても。


 だからってなんだ。僕は許せない。ミゲルのことを。


「ま、いいじゃんそんなの。お前が抜けたお陰で、俺らはダンジョンマスターと一戦やれたし。まともにダメージを与えられなかったけど、装備くらい奪えたんだよ。ほら見ろ。奴が隠してた宝剣だ。絶対に価値がある、ぜ………ん?」


 飄々としているミゲルの目が鋭くなる。


 異変とあっては眠気など吹き飛んだ僕の仲間たちが、見慣れない姿をしているからだ。


「………おいロイドくん。お前さぁ、その装備………なに?」


「ダンジョンマスターを倒したから、そこにあった宝は全部もらったよ」


「………は?」


「だから、倒したんだよ。ミゲルたちでも倒せなかったダンジョンマスターを。巨大な骸骨だった。でも一撃だったね。ミゲルはまともにダメージを与えられなかったんだ? それでA級ギルド? なにそれ。笑えるんだけど」


「一撃………倒した? あの骸骨を!?」


「そう。だから僕たちはここにいる」


 僕が得た能力でダンジョンマスターを一撃で葬ったのは事実だ。そして僕と仲間はダンジョンマスターが隠し持っていた装備を得て、纏っている。ミゲルはたったひとつしか得られなかったが、僕たちは計十五個の装備を均等に分けて装着していた。


 ミゲルには到底、信じられない話だろう。そこで僕は「見覚えあるよね?」と討伐の証である骸骨の甲冑の一部をミゲルの足元に投げた。


 ミゲルは呆然とし、そして震え、プライドを傷つけられて顔を真っ赤にして………しかしすぐに平然を装った。


「あ、ああ………訂正しようかな。ダメージは与えられたんだ。なぁロイドくん。わかるだろ? その装備ってさぁ、元はといえば俺たちが得るはずのものだったんだ。だから………返せよ」


「意味不明なんだけど。どういうこと? まともに戦えなかったミゲルが、なんで見返りをもらおうとしてるの? でも筋が通らないよね? 活躍できなかった僕を捨てたじゃない。そんなミゲルが、なんで僕たちの装備をもらえると思ったの?」


「………うるせぇ。いいから寄越しやがれっ」


 ミゲルは周囲の嘲笑の視線に耐えられず、僕に襲い掛かる。


 でも残念だったね。僕はそれを待っていたんだ。


初めて感想とブックマークをいただきました。ありがとうございます!


昨日は更新するつもりだったのですが、思いの外多忙でなかなか筆が取れず………こういう日もたまにあるので困りますなぁ。


さて、今回はロイドくんのリターンマッチとなりますが、いかがでしょう?


定番となるのは追放された側が胸糞悪い追放者を返り討ちにするという展開ですよね。多くの「クビにされたから〜〜〜」の作品で、このような形が取り入れられていると思います。


次回は、そんな追放された側と、追放した側の視点で書いていきます。

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