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お前使えないからクビね

とてもありがちなストーリーだと思います。


まぁ………それはプロローグたるこのお話だけなのですが。つまりこれはチュートリアルなのです。

「ロイド。お前さ、あれだけサラが面倒見てくれたのに、いざ戦いになるとどうよ? 俺らの陰に隠れて身動きひとつすら取らない。正直、失望してるんだよ俺ら。………てなわけで、お前使えないからクビね」


 刃のように研ぎ澄まされた視線を突きつけられ、息を呑んだまま硬直してしまう。


 原因はわかっている。数分前の戦闘だ。いや、それだけじゃない。その前だって、その前の前だってそう。僕はいざ戦闘になった途端に動けなくなった。


 怖かった。初めてのダンジョンに潜り、村のみんなの期待を背負い、ダンジョンの主を討伐してみせる。そう啖呵を切って、旅人に戦い方を教わった成果をやっと発揮できると思っていたのに。現実というのは非常に残酷だった。


 旅人は五人。偶然村に立ち寄って、ダンジョンから進行するモンスターの脅威に晒された村の現状を知り、村長たちとともに悲惨な現状に嘆いた。とても良いひとたちだとわかる。


「ミゲル………そんな言い方はないでしょう!?」


 母性に溢れ、万人に愛情を注ぐ聖母を思わせる女性がリーダーであるミゲルを叱咤する。


 僕を庇ってくれたのはサラという女性だ。旅人集団のひとり。パーティの後衛を務め、傷の治療と状態異常の回復を担当。たった五人で世界を旅するのだから貴重な回復役だ。


 僕はサラに師事した。物理攻撃も魔法攻撃も話にならないほど素質がなく、防御もままならないのであれば、回復しかない。しかし回復魔法という難解な書物を読解できるほどの能力もないわけで。


 仕方なく回復薬の調合と、薬草の見分け方を徹底して叩き込んでもらった。お陰で草花についてなら村で唯一の医者である老夫婦より詳しくなれた───気がする。


「サラ。残念だけど僕もミゲルに賛成。回復ができない回復役なんて、庇うだけ無駄だよ」


「スーシャさんまで………」


「わかってるよね? 僕たちは依頼されてここにいる。まぁ半分はミゲルが同情して、あまり儲けにならない貧乏くじを引かされたようなものだけど。けどそれはいつものこと。もう慣れた。報酬の条件はダンジョンの主を討伐することだけど………別に、彼を生還させることが絶対条件ではなかったはずだ」


 パーティのなかでもっとも鋭利な刃物じみた視線を向けるのがスーシャという男だ。パーティの前衛。クールな剣士。巨木をロングソードで縦に両断するほどの力量は、初めて目にした時には失神しそうなほどの迫力だった。


「仕方ないでしょう。ふひっ………荷物は軽ければ軽いほど機動力が上がる。サラさん。あなたとて常に計算できているはずだ。携帯可能限度ギリギリの食糧と、今のペースを比例した結界を。ふ、ひ………仮にこのまま最奥に引きこもるダンジョンマスターを討伐できたとて、帰還できるほどの余力があるとは思えない」


「そーいうこと。てなわけでロイドお兄ちゃんさぁ。このまま帰ってくれないかなぁ? それがみんなのためなのぉ。だーいじょーぶ。まだまだ中層だし、一般人なら一撃で殺される程度の攻撃をしてくる敵しかいないしぃ………あっ、ごっめーん。ロイドお兄ちゃんも一般人だったかぁ! あははははあ!」


 洞窟の奥を見ていた怪しい口調の商人風の男と、僕を露骨に卑下する言動をする幼い女の子が嘲笑しながら、愕然としそうな提案をする。


 ハッとしてミゲルに縋る。このままではいけない。こんなところで置いていかれるわけにはいかない。


 ダンジョンに潜って四日目。本来なら一日で進軍できるペースと予想していたのが大幅な遅れとなって食糧問題を逼迫させていた。


 確かに僕が離脱すればこのままダンジョンマスターのところまで行ける。手持ちの食糧や消耗品が尽きる前に地上に戻れる。しかしそれは僕の生命の危機が切実な問題となることを意味していた。


「み、ミゲルさん! どうか、どうか僕も連れて行ってください! 今度こそ………今度こそお役に立ってみせます! 回復薬の残りだってまだあるんだ。やれることがあるはずなんです!」


「ハァ………馬鹿なガキを相手にするってのも、なかなか苛つくよなぁ」


「えっ………」


 また愕然としてしまう。


 ミゲルは人情に厚く、涙脆く、誰とでも仲良くなれる素敵な大人の男だと思っていた。僕にだって分け隔てなく接してくれた。幼い頃に両親に先立たれ、村の大人が与えてくれる最低限の仕事で細々と暮らしていた僕の過去を、美談でもなんでもないそれを聞いた時は「まだ子供なのに、なんて立派な奴なんだ!」と叫び、泣きながら抱きしめてくれた。


 戦闘能力がない僕を一度だって見放さず、サラとともに色々と教えてくれたはずなのに。ダンジョンマスターを討伐して、穀潰し扱いをする大人たちを見返してやりたいと打ち明けると「やってやろうぜ!」と臨時でパーティに入れてくれたのに。


 幼馴染で密かに想いを抱いてる少女がいると教えたらパーティ一丸となって応援してくれたのに。「ダンジョンを攻略したら告白しろよ」と背中を押してくれたのに。


 ミゲルは、いつも大人たちが向けてくる視線をしていた。


「現実みろよクソガキ。役に立つって言ったけどよ、それ昨日も聞いたぞ。あれから反省して、自分なりに改善したつもりがこれか? ふざけんな。おい。やる気ないんだろ? あのメスガキに告るために俺らを利用してんだろ? 必死こいて戦う俺たちの後ろでボーッとしやがって」


「ち、ちがっ………」


「違うか? 違くないよな? このままダンジョン攻略できりゃ、お前はなんも苦労せず功績だけを得られるよなぁ。楽だよなぁ? でも残念だったな。俺らは慈善団体じゃない。ったく………サラが仕込んだから壁役くらいにはなるかと思ったが、使いものにもならないとはな。おいサラ。お前もお前だ。なんでもうっとこう………人格がぶっ壊れるくらいの調教をしねぇんだよ。俺はこのクソガキをペットにするために与えたつもりはないんだがな」


 そんなことを考えていたなんて。


 壁役とは、つまり人柱だ。誰かが負傷しそうになった時、率先して自分の体で庇いにいく肉の壁。無論、一撃でも食らえば死ぬ。


 ミゲルは最初から僕を犠牲にするつもりでここに連れてきたんだ。僕にはもう、僕がこの世を去ることで悲しむ家族がいないから。村のなかで最適の人材だと白羽の矢が立ったのだろう。


「あ、あは………はは………そんなはず、ない。ミゲルさんは、そんなこと………言わない」


「残念だけど、言うよ。お遊びでダンジョンなんかに潜れば死ぬし。俺らだって真剣にやってるからな。ああ、そうだ。お前はもう使いものにならないし、報酬も少ないし、このダンジョン攻略が終わったらあの村でまた人材発掘しようか。探せばまだ身寄りのないガキもいるだろうし。お前が片想いしてたメスガキも調教して、壁役にでもしてやるかな」


「そ、そんな………やめて………やめてください! リンには………リンには手を出さないで!」


「はっ、じゃあなにか? あのメスガキ以外ならいいってか? やるねぇ。それじゃあのメスガキ以外を奴隷にするかな。近くに山賊どももいたはずだし。宝だって隠してそうだから、売り飛ばせば少しは満足できる報酬には届くだろうよ」


「やめ………やめろぉぉおおおおお!」


 僕には家族がいない。守りたいものだって少ない。でもそんな僕にだって、周りの大人たちと同じように誰かを愛する感情を持ち合わせている。


 それが両親が逝去する前から交流があり、支えてくれたリンの存在。彼女は同い年ながらも大人びた意見を発し、そしてなにかあれば僕を庇ってくれた。周囲のすべてを愛し、愛される少女こそ、僕が僕の存在すべてを賭けても足りないくらい守りたいと誓える女の子だ。


 リンは家族も隣人も村も、風や湖などの自然も愛する。それらすべてが蹂躙されてしまえばリンはリンでなくなってしまう。


 僕はダンジョンに生息するモンスターと会敵した際の恐怖を上回るほどの恐怖を抱きつつも、リンを失うことの恐怖による怒りが優ったのか、ミゲルに立ち向かっていた。


 狙ったのは腰。サラに少し教わった対人の戦闘技術。タックルで思い切り押し倒し、マウントポジションを獲得すれば殴り放題───となるはずだった。


「今さらやる気になってんじゃねぇぞ小僧がっ」


「ぅがっ!?」


 ミゲルに突き出した頭部が直撃する寸前で、僕の体は宙に浮く。両腕を突き出した代償に、僕の腹部がノーガードとなる隙を与えてしまう。ミゲルは決して見逃さず、膝蹴りで奇襲をしのいだ。


「テメェ、そのやる気をどうしてモンスター戦で出さねえんだよ。その気概があれば、なんだってできただろうによぉ!」


 ミゲルの怒号が降り注ぐなか、蹴りを顔や胸や腹に受け続ける。まるで子供のボール遊びのように連続で突き飛ばされ、ついに壁に衝突する。その頃になると、激痛で動けなくなっていた。


「リカルド。結界解除。役立たずは捨てよう」


「フヒッ………丁度、後方に接近する敵がいるから後片付けも任せてしまいましょう」


「あははぁ! 証拠が残らなければ、見捨てたってバレないしねぇ!」


「アナスタさん。ふ、ひ………そのような野蛮な言葉は、使うべきではありませんなぁ」


 結界と索敵を担当する商人風の男のリカルドと、容姿に見合わず残酷なことを述べるアナスタ。


 結界を解除するよう命令したスーシャは辟易した様子で僕から視線を逸らし、ダンジョンの奥へと進む。


「ま、て………」


「ロイド………大丈夫。隠れていてください。帰る時、ここを通ります。密かに回収しますので、決してここを動かないで待っていてください。モンスターには絶対に見つからないでくださいね。そしてダンジョンから出たら………村に戻るのは、どうか諦めてください」


「そんな………サラさんまで………村を、本当に………」


「ごめんなさいね。ミゲルも、私も………そこまで善人ではないのですよ」


 最後の砦であったサラも僕を見捨てる。回収する旨を伝えるも、ダンジョンマスター討伐にかかる日数がどれほどのものかは不明。少なくとも一週間を見積もる食糧だったはず。僕の分を分配すればもう一日加算。最長で四日。そんな日数を僕はモンスターに囲まれながら過ごさなければならない。


 到底不可能な話だ。上層であってもリカルドの索敵にかからず物陰から奇襲したスライムもいた。


 たったひとり残されれば、僕の命は数秒で尽きてしまいかねない。


「行くぞお前ら。こんな茶番、付き合ってられるか」


 吐き捨てるように言ったミゲルは踵を返してダンジョンの奥へと進む。同情のつもりか、光源となる発光石は結界を展開していた場所に残して。


「じゃあな臆病者。いつ食い殺されるかわからねぇダンジョンで、敵に見つからねえように祈ってるんだな」


「ふひっ………それは叶いませんなぁ。後方から小鬼どもが接近しておりますゆえ」


「おっ。そりゃ幸先がいい。普段は鬱陶しいゴブリンどもに産廃処理を押し付けようぜ。ギャハハハハハッ!」


 哄笑するミゲルは全員を引き連れて去ってしまった。


 リカルドが言っていたことは数秒後に現実となった。


 いる。来ている。騒ぎ過ぎた。ゴブリンが群れ単位でこちらに接近する足音が、僕の命を奪う死神のごとく接近していた。


初めまして。桐生夕陽と申します。

記念すべき第一話を投稿しました。


前書きで書いたとおり、ありがちな展開です。

ここからクビにされたロイドが覚醒し、主人公無双となり、ハーレムでもなんなりと築き、魔王をボコボコにしに行く………という。


しかし、それでいいのでしょうか?


そのようなジャンルはなろう小説に溢れています。


私が書きたい記念すべき最初の作品は、あまり着目されない別の場所にあります。


多分、数十話で終わりますので。生暖かい目で見守っていてくださいませ。


次回から意外な展開となっていきます。

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