冒険者ギルドのならず者【短編版】
注意書き
作劇の都合上、登場人物たちが「小説家になろう」小説のテンプレートを揶揄する場面がございます。そのような内容に嫌悪感・忌避感を覚える方の通読は推奨いたしません。何卒ご自衛くださるようお願いいたします。
残虐・性的な表現はありませんが、R15タグを保険でつけております。
「マーク、これ見てみろよ」
フランクにまつわる疑惑は大抵が真実だ。
良い噂はひとつもない。
やれどこのパーティの誰をブチのめしただの、金に手を付けただの、女に手を出しただのという話は、聞いた時点で真偽がわかる。
だが、この疑惑に関してはどちらなのか言えない。
本を読んでいる。それも、とても楽しそうに。
「その本、どうした?」
冒険者ギルド内は閑散としている。依頼の授受のピークタイムは過ぎた。勤勉な冒険者は出払っていて、カウンターに受付嬢の姿もない。奥に引っ込んで休憩を取っている。
冒険者ギルドには酒場が併設されている。今みたくフランクの指定席でもあるが、冒険者ギルド側も慈善事業じゃない。単純に金になる。冒険者の給金の多くは酒に消える。酒は冒険と同じなのだ。
「ダイアンの借金のカタだよ」
「お前に金借りるバカがまだいたとはな」
どんなやりとりがあったか、これだけで薄々想像できる。
「しかし意外だな。お前が本一冊で引き下がるとは」
「別に引き下がったりしねえよ。半日待ってやるってだけだ」
「もっと意外なのはお前が文字を読めるってことだよ」
ニヤつきながら読んでいた本から顔を出し、大仰に肩を竦めた。
「難しいことは書いてねえさ。魔導書の類じゃない」
「修道士にでも習ったか」
「ニュアンス読みだ。それよか、こいつの書名を聞いてみろよ。傑作だぜ」
煙に巻きつつ、俺が文字を読めないことを見越した言い分は、ここで聞きそびれれば二度とその機会は訪れないと暗に語っている。
上手いやり方だ。フランクのことを好きな人間などいないが、話術に一目置く連中は多い。
「言ってみろよ」
「いくぜ……『冒険者パーティでお荷物な私、馬車事故に遭って転生したら神話時代最高の守護天使でした~もう放っておいてって言ってるのに、イケメン守護天使たちに求められてとっても困っちゃいます~』」
ん?
今、なんて?
俺が唖然としていると、フランクの引き笑いが聞こえる。
「な? おもしれーだろ」
「面白いというか、それ本当にダイアンの本か?」
ダイアン。
Eランク冒険者パーティ【東風】の風魔法使い。
常時フードで目元を隠す引っ込み思案で、他のパーティメンバーの後ろを歩くような女だったはずだが。
「イメージが違うか?」
「ああ」
「陰気に見える女ほど、内側にどうしようもないもんを抱えてるもんさ」
フランクにとって、女は収奪物に近い。生まれてこの方一度だって情けをかけたことがない。内面を語る資格など持ち合わせているはずもない。
その辺の事情は本人も自覚するところなのか、言い訳のようにさる事実を羅列した。
「町娘が書いた本だ。同じく町娘の間で流行して、大ベストセラーになっているんだと」
「それでダイアンも持っていたのか」
つまり読み物、物語の類か。
「タイトルで薄々想像つくと思うが、こいつは転生モノだな」
「転生……」
馴染みの薄い言葉だ。死ねば天国へ行く。それが女神の教えで、冒険者もそれに準ずる。なのに、まさか新たな人生の話だとは。
「死んで生き返ったらゾンビだろう」
「だな。普通はそう思う」
リビングデッド。生ける屍。残存魔力を動力として動き、身も自我も腐り続けて、最後にはどろどろの半液状となる。
「ところがこの本じゃ、人種も時代も違う別の存在に転生するんだそうだ」
「たしか、守護天使とか言っていたな」
フランクが上機嫌にビールを呷った。
「実は、まだある」
「まだあるってお前……」
呆れていると、足元に無造作に放られていた収納袋から、同じような装丁の本を3冊ほど出してきた。
「今度は誰だ」
「ダニエルだ。手持ちがないから、付き合ってる女の本を寄越してきやがった」
ありゃ長くないな、とはフランクの談。
「察するに、そっちも転生モノの物語か」
「ご名答。死ぬ前の職はまちまちだが、転生先は守護天使だ」
「守護天使のバーゲンセールだな……」
神話時代に関しては明るくない。俺自身がまともな育ちをしていないのもあるが、そのすぐ後に暗黒時代が到来する。文字文化が失伝し、歴史書が軒並み消失したらしい。
俺は文字が読めない。何故読めないものについて話し込んでいるのか。その不毛さに気づき、話題を変更しようとする。
「今日の仕事の話だが……」
「急かすなよ。俺の機嫌を取った方が賢いぜ」
フランクの機嫌。取り分の割合。
「読んでるうちに、この手の読み物の共通点に気づいた。聞きたいか?」
「そいつは、是非ともお聞かせ願いたいな」
取り分の割合。
「この手の本の主役は、上手くいっていない」
フランクは言う。
それは転生前の話だそうだ。
この手の読み物の主人公は、現実世界の落伍者が多い。能力を発揮できず、あるいは足らず、そのせいで悲惨な境遇に甘んじている。
「食うにも困る状況で、寝床もない」
「そいつは大変だな」
イライラしているのは伝わっていないはずだ。
フランクにそんな感情の機微は存在しない。
「ところがある日、死んで転生を果たす。転生した後はどうする?」
「守護天使になったなら力を振るえばいいだろう」
「甘いな。まずは安全の確保だ」
環境の変化には大きなストレスが伴う。転生によって自らを取り巻く環境が一変した主人公は、自ずと己が転生者であることを隠そうとする。
「一般的には、どうだ? ある人間の心が、他の存在に乗っ取られている」
「悪魔憑きか」
自分で言って、少し納得を覚えた。
悪魔らしくない悪魔なら、保身のために誤魔化しても不思議じゃない。
「次は、どうなる」
「周辺社会との融和ってとこだろうな。身の証を求める」
フランク曰く、その社会を構成する一員としての役割を求められ――この場合は守護天使の一員としての仕事を求められ――それを果たすことによって社会に受け入れられ、帰属意識の自覚とともに、ここでやっと安心感を得ることができるようになる。
「そしてやっと、神話時代最高の守護天使の出番がくる」
「力を振るえば、みんなに認められる」
「男だって手に入る」
考えることはみな同じだ。
仮に野郎向けの本があったとしても、同じことが書いてあるだろう。
「そして最後だ。自分でしかできない偉業を成し、与える側に回る」
「与える?」
ここまででもかなりの富をこさえているだろう。だが偉業を成せばもっと大きな富を手に入れることができる。何故しない?
「崇拝されたいのさ。自分だけの幸福じゃ物足りなくなるんだよ」
「どういう意味だ?」
「神様になりたいのさ」
ああ、なるほど。
そいつはとても強欲な願望だな。
持論語りは終わったらしい。フランクは酒精が回った赤ら顔で、今にも吹きだしそうに笑いを我慢している。
「つまるところこいつは、社会のゴミが神様になる話なんだよ。傑作だろ?」
本をテーブルに叩きつけて面白がるフランクと対照的に、俺の頭からは血が降りる感覚がある。
こいつはたしかに、バカげた御伽噺だ。
だけどこれは……慰めだろう。
「人の娯楽を笑うつもりはないな」
酒にだらしなく、女にだらしないフランクに言えたことじゃない。
明確に機嫌を損ねたと思った。今日の取り分は1:9だろう。それ以上を求めたら半殺しだ。しばらく質素な生活になる。
フランクは笑みを失っていなかった。
どういう理屈か上機嫌が続いている。
「思うに……」
ビールを呷って、どこか遠い目。
「この手の話がウケるのは、今だけじゃない。考えが及ばないくらい遠い未来にだって、同じような話が書かれるはずだ」
予言的な物言いに、目を細める。
フランクは許容量を超えた酒精を摂ってはいない。
「何故そう思う?」
「転生先がどうして神話時代かわかるか?」
質問を質問で返され、頭を捻っているうちに時間が切れた。
「……よくわかってねーからだよ」
フランクが言うに、暗黒時代を挟んで過去にある神話時代では、歴史書の精度が極めて落ちるらしい。
女神と天使と人とが混在し、かけ合わせの人種までもが地表を闊歩するような、今からは考えられないような時代だったのだと。
「歴史の精度が落ちて、何故それが神話時代を選ぶ根拠になる?」
「空白を自分に都合よく捏造できるからに決まってんだろ」
すとん、と腑に落ちる感覚がする。
「……なあマーク、王政が続くと思うか」
「唐突に話が飛んだな」
「答えろ」
どうでもいい話題で気分を害して得はない。
「今の王朝は長い。これからも続くだろう」
通り一遍の返答に、フランクが首を振った。
「いずれ、滅ぶさ」
「根拠はあるのか?」
フランクは冷笑的に笑う。
「この世界は、王侯貴族どものメンツと奪い合いで成り立ってる。巻き込まれる下々の気持ちなんざガン無視してな。だから溜まる。恨みつらみがガスみてえに底に吹き溜まって、やがては爆発する。そうすれば王政なんざおじゃんだ」
かかか、と愉快げな笑い声が閑散とした冒険者ギルドに響く。
フランクらしからぬ考え方だ。
こいつはもっと刹那的な人間だと思っていた。
「反乱が成功すると?」
「その言い方は適当じゃないな。民衆が王や貴族に取って変わるんだ」
「そいつらが新しい王侯貴族になるだけじゃないのか」
「いや……民衆が民衆のまま、力を持ち始めるんだよ」
俺は頭が悪い。
フランクの言っていることがさっぱりわからん。
ハイになったフランクは、こちらなどお構いなしにしゃべり続ける。
「革命が起き、共和制かそれに似た世界が再びやってくる。民衆は王の代わりに代表を選び、そいつを頭にする。一見すると平和だが、今と同じことが裏で起こっている。権力者どもの搾取だ。郷士に似た連中が、それとわからないよう民を搾っている」
地主が力を持つ時代か。
「ぞっとしないな」
「そんな時代にも、この手の本には需要がある」
フランクが背表紙を乱暴に叩く。一周して話題が帰ってきた。
話の構成の妙に、少し興味をそそられる。
「どんな連中が読む」
「ダイアンと似たり寄ったりの輩だな。地べたに足がつかねえで、どっか浮ついてる連中だ」
フランクの予想によれば、未来世界では人の抱える富の総量が飛躍的に向上するらしい。しかし当然、富は下層まで回らない。社会の底辺層は今の俺たちと似たり寄ったりか、それ以下の生活を強いられる。
「仕事はある。が、肉体的精神的にきつく長時間労働だ」
「反乱を起こさないのか?」
「さっき言ったろ? それとわからないよう搾られてる」
民衆は牙を抜かれ、振り上げた拳の下ろし先すらわからない。
自分が流血していることすら理解していない。
「で、この手の本の出番ってわけだ」
「神話時代に転生したいと?」
フランクは手に取った本ごと腕を振って打ち消した。
「マーク、よく考えろ。よくわかってなきゃそれでいい」
「どういうことだ?」
「気が遠くなるほどの未来なら、俺たちの時代のこともよく覚えてないってことだ」
なるほどな。
時間を未来にズラして振り返れば、今も神話時代も変わらない。
「しかるに、仕事で使い潰されてる女がいる。長時間労働、はした金でこき使われて、周囲に無能の烙印を押されている。そんな女が事故や過労で死に、俺たちの時代に新たな命として生まれ変わる」
そこでフランクは俺を見た。
「誰に生まれ変わる?」
「同じ立場は嫌だろうから、たぶん……貴族だろうか」
「そうだな。思うに公爵令嬢辺りが妥当だな」
公爵令嬢。
たしかに食うに困らない身分ではあるが。
「そこまで高位だと自由がない。それに王女でも変わらないだろう」
「自由については貴族のことをよくわかってねえだけさ。王女じゃねえのには理由があるけどな」
理由?
「王子と結婚したら、格上婚だろ?」
「ああ……女の夢ってやつか」
「冒険者にとっちゃ墓場だけどな」
有名な俗説がある。
結婚引退する冒険者で、笑顔を見せるのは女だけ。
男といえば眉毛をハの字に曲げ、どいつもこいつもなんとも言えない顔をする。自由な気風を求めて冒険者になったのに、今度は家庭という名の檻に押し込められるという矛盾。
逆に女は、今後の人生で食うに困らない男を捕まえられて、人生最大の喜びを味わうんだそうだ。
……一時の性欲に負けた連中の、自己責任だがな。
「思うに、波風立たない話などつまらん。だから、最初に出した男との縁は切ることにする。そうだな……公爵令嬢として転生した女は許嫁である王子から婚約破棄を突きつけられ、性格最悪のそいつから自由になった上で、より好条件の別の王子から求婚される。最後はその別の王子が元許嫁を断罪してハッピーエンドってところかな」
即興で作ったにしてはデキがいい。
がしかし、男の身からすると不快要素がある。
「婚約破棄とか……そんなバカ王子本当にいるか」
「いるとかいないとかじゃねえよ。現実と創作を混同するなっての」
正論だが、フランクにだけは言われたくない。
「知らないものには理想を詰め込める」
空になったジョッキを置き、フランクの深い吐息を聞く。
「あそこは、蛇の棲み処だ。派閥に別れた家中どもが、まだおしめも取れてないガキを御輿に担ぎ上げ、誰を跡継ぎに据えるかで日がな一日争ってる。それが1年中休みなく続く。仲が悪くもねえのに相手を憎むようそそのかされて、兄弟は肉親相手に憎しみを募らせ始める。権力闘争。富の奪い合い。貴族なんざクズ揃いだ。どいつもこいつも破滅すりゃいいんだよ……」
俺の中で、疑念が深まった。
酒精の力で心のガードが降りている今なら聞けるかもしれない。
その機会は訪れなかった。
酒場の女給が盆の上に水の入ったコップを乗せ、こちらに運んでくる。
「あんがとよ」
「……いえ」
この冒険者ギルドでフランクの悪評を知らない者はいない。女給は震える手つきでコップをテーブルに置き、盆を胸に抱えて小走りで去った。
「時間だ」
窓の外を見るが、太陽の位置は想定より高い。
「仕事にはまだ早いだろ」
「そっちじゃねえよ」
どういう意味だ、と首を傾げる。
フランクは届けられたコップを掲げた。
「ダイアンの件だ。さっきの女に、こいつを時間通り届けるよう言っておいた」
「今ので半日って……早朝に押しかけたのか?」
「そうすりゃ逃げられねえからな」
フランクはコップに口を付けないまま、テーブルに置いた。
酒精はそこまで回ってないし、飲むためのものじゃない。
「支配人に話を通してある。ダイアンは娼館行きだ」
「利子の上乗せで勘弁してやらないか」
俺らしくない真似をした。
たぶん、さっきした話が頭のどこかに残っていたためだ。
フランクは驚いたように目を見開き、不敵に眇める。
「らしくねえなマーク。ダイアンみたいな根暗女が趣味か?」
「いや」
「それとも俺に酒を奢られた記憶があるか?」
「お前は誰にも奢らない。だから俺は一滴も飲んでない」
クソ、背中に汗が流れ始めた……。
「ダイアンは、あいつは男に夢を見てる」
「そいつは結構。その前に現実を教えてやれる」
コップの水を掌にぶちまけて、フランクは軽快に口笛を吹く。
「着いてくる気がないんなら、無理することはない。こいつのアガリは俺のもんだ。やっこさんの首根っこをとっ捕まえて、娼館へ突き出す。フードの下を見たことがあるが、そこそこの値になるだろう。しばらくは高い酒をかっ食らえる」
テーブル据え付けの小壺を開き、中身の白い粉を指先で抉り取る。
そいつを濡らした両の掌にじゃりじゃりと刷り込んでゆく。
思い出したように、その動きが止まる。
「だがもし、俺の邪魔しようってんなら……わかってるな?」
粉を掴んだままこちらに突き出す、固めた拳。
その意味は俺の肉体が、痛いほど理解している。
こいつには一度だって勝てた試しがない。
「……そんなつもりはないさ」
「は! そう言ってくれると思ってたぜ、相棒!!」
粉の付いたままの掌でバシバシと背中を叩かれる。
フランクは救いようのないクズだ。借金女を娼館に売って良心が痛みもしない。こいつに過去は関係ない。たとえ同情に足る不幸を体験していようと、今やろうとしてる悪行の言い訳にはならない。
だが、俺もまたクズだ。フランクを前にすると、身体が強張るのを感じる。ケンカを2度吹っかけられて、2度とものされた。そのときの恐怖が骨の髄に残っている。だから俺はフランクに逆らえないし、今やこいつの腰巾着だ。敵に回さないために、仲間になるしかなかった。
指で髪をほぐしながら、上機嫌にフランクが歩く。
迷いのない足取り。ダイアンの居場所にアタリが付いてるな。
出口を通る間際で、不意にこちらを振り返った。
「……そういや、仕事の話だったな」
「そっちが片付いてからでいい」
ニタァ、と粘着質な笑み。
根っからの天邪鬼は、俺の不機嫌にとってのみ敏感だ。
「そう言われたら、なおさら聞きたくなってきた。ダイアンの娼婦落ちはアペタイザー、お前の持ってきた仕事がメインディッシュだ」
ゲスが!!
心の中でのみ叫ぶ。
今決めた、こいつとはもう仕事しない。
絶対にこの件で最後にすると――。
でも今は、従順さを装う以外に手立てがない。
「東方からの尋ね人だ」
「どのくらい東だ?」
「わからん。気が狂うほど遠い場所から飛ばされてきたと本人は言ってる」
生え際から先端へ、丁寧に指を滑らせるのが見える。
フランクの長い髪がやっと重力に逆らい始める。
「実入りは良さそうか?」
「特殊な武器を使う。波紋のある剣で『カタナ』とかいうらしい」
「初心者あるあるだな。大枚叩いて自分専用の武器を作る」
もっとも、その分高く売れる。
俺たちはハゲタカのようにそいつを狙う。
「名前は?」
「ケンノスケ・ミサキというらしい。協力者として取り入ったサイモンが冒険者ギルドまで案内する予定だ」
「なら後は手筈通りに。囲んでボコって取り上げて仕舞いだ」
かかか、とフランクが笑う。
話しているうちに、いつものスタイルができあがっている。
水と砂糖のみの簡易ワックスで、フランクは自分のトレードマークを作り上げる。頭の左右から集めて逆立てた長髪は、ただでさえ長身のヤツが放つ威圧感を一気に倍加させる。
可哀想に、ダイアンはひとたまりもないだろう。脳内で攻撃魔法の構成すら編めず、おそれおののきながらフランクの前にひれ伏すことになる。
けど、その方がいい。下手に抵抗して殴られるより、自分の足で娼館まで歩いた方がずっとマシだ。少なくとも、肉体的な痛みは感じずに済む。
「帰ってきたら、初心者狩りだな」
冒険者ギルドのならず者。
モヒカン・カットに戻したフランクの背中が、まだ明るい通りへと消えてゆくのを、俺は黙って見送った。