わたしの中では『五月蠅く喚く迷惑なヒス女』から、『叩き潰すべき相手』に昇格しました。
誤字直しました。ありがとうございました。
「来たか」
と、執務室に入ったあたしを見やるアストレイヤ様。
ふむ、シエロたん……蒼の姿もライカの姿も無し。いつもいる人達もいない。人払いがされているらしい。
どうやら、あたしにだけ用があるっぽい感じかしら?
「はい。なにかご用でしょうか? 内緒のお話とか?」
「まあな。ところで、君は大層美形が好きだそうだな? 君がそんなに面食いだったとは知らなかったぞ」
「そうですねぇ……特に公言はしていませんでしたから」
「シエロは知っていたのに?」
「ふっ、シエロ兄上のお顔はわたしのドンピシャ好みのストライクですので。初対面のときにラブコールをしてバレました」
「ああ、君とシエロが初めて接触したときの茶会か。なにやら、二人して大変興奮した様子で話し合っていたと聞いたな? そんなことを話していたのか」
クスクス笑うアストレイヤ様。
「そうですねぇ……まあ、アレは母がお茶やお菓子に毒を盛っていたので。シエロ兄上との怒鳴り合いは、それに対する警告&注意喚起も込みのことですね」
うむ。蒼との運命的な再会に加え、【愛シエ】のゲーム内容の言及と、腐女子と百合スキーの見解の相違などなど。至極有意義な話し合いだったわね!
「……そうか、毒に対する警告か。それにしても、よくシエロに信じてもらえたな?」
「そうですねぇ……母としては、シエロを害するもよし。または、わたしがシエロ陣営に害されたとして騒ぎを起こしてもよかったようなので。致死量ではなく、それなりに苦しむ毒だったと思います。その部分を正直に話しました」
「・・・お前、淡々とし過ぎではないか? 実の母親に毒を盛られ掛けたのだろう?」
アストレイヤ様が不快そうに眉を顰める。
「ん~……わたしはあの人に産んでもらいはしましたが。別に、あの人に育てられた覚えはありませんから。顔が似てるだけの他人みたいなものです。それどころか、わたしを育ててくれた使用人達を酷く傷付ける時点で、あの人はわたしの敵という認識でしたし。あまり動けないように抑えてはいましたが……あの愛らしいシエロ兄上を害そうとする時点で、わたしの中では『五月蠅く喚く迷惑なヒス女』から、『叩き潰すべき相手』に昇格しました」
現在は麗しき美貌のシエロたん美ショタバージョン♡であり、あたしの可愛い蒼を害するものは何者であろうとも赦すまじっ!!
「ああ、そうだったな。お前は見た目に反し、なかなか苛烈だった……」
と、なぜか複雑そうな、思案するようなアストレイヤ様の視線があたしを見やる。
「? どうしましたか? なにか、言い難いことでも?」
「そうだな……君は、会いたいか? 母親……ミレンナに」
「へ?」
「ミレンナから、君に会わせろと要望が出ている。要約すると、『母親から子供を取り上げただけでは飽き足らず、子供から母親と面会する権利までも取り上げる気か? ネロとネレイシアに寂しい思いをさせて、あの二人が憐れとは思わないのか?』と。そんな手紙が届いた。故に、君の意向を聞いておこうと思った」
「ぇ~? やー、ちょ~っとなに言ってるか全然わからないですねー。わたし、あの人から生まれたってこと以外に、あの人に母親らしいことしてもらった記憶全く無いんですけど? 顔見なくて寂しいとか思う以前に、キーキー五月蠅い声が聞こえない方が安心するって感じの情緒ヤバい人でしたし」
「もしかしたら、君が会いたいと言うかとも思ったが……本人の言い分を聞くと、ミレンナは報告よりも大分酷いな? では、わたしの方から断っておく」
「あ、いえ。会いに行きますよ?」
「・・・やはり、あんな母親でも会いたいか?」
なにやら不憫な子を見るような視線が向けられた。え~? もしかして、あんなのを慕ってると思われてる? 無いわー。
「いえいえ。別に母親が恋しいとかは全く、微塵も思ってないです。おそらくは、わたしに自分の待遇改善を訴えたり、あわよくば療養先……という名の幽閉地から出たいとか思ってんじゃないですかね?」
「そこまで予想していて、それでも君はミレンナに会いに行く、と?」
「ええ。どうせなら、今のうちに直接心へし折りに行こうかな? と思いまして」
ニヤァと多分悪い顔して笑うと、
「恨み言でも言いたいのかと思ったが、想像以上の目的だった……」
なぜか、頭が痛いというように額を押さえるアストレイヤ様。
「本当に、実の母親を叩き潰すつもりか……」
「はい♪」
「相変わらず、末恐ろしい子だな君は」
「ふふっ、遠くの親戚より近くの他人。なにもしてくれない実の親より、自分に心砕いてくれる育ての親ですよ? いつも感謝しております、お義母様♪」
「全く、君は・・・」
「それで、いつ母に会いに行けばいいのでしょうか?」
「君が行きたいときでいい」
「あ~……それじゃあ、明日にでも行きますかねー? シエロ兄上やライカ兄上には内緒にしてもらえると嬉しいです」
「今日聞いて、明日行くつもりか……心構えなどは要らないのか?」
「心構えより、そうですねぇ……行くときはひっそりと目立たない馬車で移動する予定ですが、療養地に行く前に豪華な馬車に乗り換えたいですね」
「まあ、大体の予想は付くが。なんの為に?」
「無論、嫌がらせです♪明日は、目一杯おしゃれしたネリーちゃんの格好で会おうかと」
「療養先に、女装して着飾った息子が会いに行く、と。なかなかに性格が悪いな」
「ふふっ、ミレンナお母様を、バッチリ叩き潰して参りますわ♪」
「……一応、明日はわたしの方で護衛を出す。ミレンナに仕えていた者達は連れて行くな」
「ん~……わたしの事情を知っている方であればいいですけど。ぶっちゃけ、あの人かなりヒス起こすと思いますよ? なので、連れて行くなら、危険人物なら美女でもぶん殴って止められるってくらい気概のある方がいいですね。下手に女性に夢持ってる人が強烈なヒスを見ると、トラウマ確定でしょうし。見た目が美女だけに、鬼気迫るものがありますからねぇ……女性恐怖症にでもなったら申し訳ないです」
「・・・考慮しよう。というか、そんな女に会いに行って本当に大丈夫なのか?」
「ああ、わたしは耐性あるので平気です。というか、叩き潰しに行くので」
「・・・護衛が危険だと判断したら、直ぐに撤退させる」
「わかりました。では、わたしは明日の準備をしに行きます」
「気を付けて行きなさい。わたしとしては、君が傷付くことは本意ではない」
「ご心配ありがとうございます。やっぱり、アストレイヤ様の方があの人よりもお母さんみたいですね」
「!」
「では、失礼しますね」
と、驚いたようなアストレイヤ様に挨拶をして執務室を出た。
さあ、明日はあのクソアマの心を確り、キッチリとぽっきりへし折ってやろうじゃないのっ!!
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読んでくださり、ありがとうございました。




