それ、悪く言えばアレだよな? つか、どうマイルドに言ったって、人体実験施設って言わね?
「では、元領主達とお話しましょうか」
クラウディオに唆され、アストレイヤ様に害を成そうとした主犯の元領主と、幇助犯や実行犯達を集め、お話と提案をする為、部屋を用意させた。防犯上、窓が無く入口が一つしかない部屋らしい。まあ、牢に押し籠めてないだけマシでしょ。
「な、な、交渉ってなんの? どんなえげつないことさせるつもりなん?」
ニヤニヤと歩きながら蒼が聞く。
「え? シエロ王子? えげつないとはどういう意味でしょうか?」
シュアンは、元領主達への身バレ防止の為、騎士達の鎧を着させている。フルフェイスの面を下ろして声を出さなきゃシュアン・ウェイバーだとは判らない。ま、武器は持たせてないで丸腰だから、見る人が見れば護衛じゃないことはすぐ判っちゃうんだけどねー。
「ん? 聞いての通りだけど? つか、ネロの考えることだぜ? まさかお前、自分達があんな目に遭わされたってのに、まだネロがただの優しいお子様だと思ってんの?」
「そ、それは……」
チラリと、なにやら畏怖を感じているような視線が向けられたので、にこりと微笑む。
「ふふっ、シエロ兄上。そろそろ着きますよ?」
「チッ……んで、俺はなんも聞かされてねーんだけど? 黙っときゃいいのか?」
「状況に応じて。シエロ兄上はお好きなように話して構いませんよ」
「シエロ王子は、少々口が悪くはないですか?」
「あなたが指摘する事自体は気に食わないですが。確かに、最近のシエロ様は口調が荒いですよ」
ちょっとムッとした顔でグレンが言う。
「はっはっは、気にすんなって。なー? ネロ」
「そうですね。シエロ兄上は普段から、王子なんて辞めたいと仰っていますから。王族に相応しくない言動をするのも、わざとやっている部分も大きいと思いますので。あまり目くじらを立てないであげてくださいね?」
「え?」
「それは……そう、なんですけど……」
「まあ、シエロ兄上の可愛らしいお顔で暴言が出て来ると、皆さん一瞬フリーズしてしまってますけどね」
「お前なぁ……お前だって人に言えねぇだろうが」
「ふふっ、それじゃあ、中に入りますよ。シュアンさんは面を下ろして、これからはなにがあっても口を閉じていてくださいね?」
と、件の部屋へ到着したので、話をぶった切る。護衛がドアを開け、安全確認をしてから入室が許可された。
部屋は窓が無い為薄暗く、灯りはランプだ。
ドアを背にしたあたし達。その前には、長椅子に座った元領主達が並ぶ。彼らを立たせて挨拶させようとした護衛を制し、口を開く。
「こんにちは。皆さん、少々窶れたようですが、大丈夫ですか?」
そう問い掛けると、どんよりした顔があたしを見やる。ま、自分達を捕らえさせた本人にそんなこと聞かれたくなんてないか。
「本日は、皆さんに提案があって来ました。わたしの提案を飲むか蹴るかはご自由に」
さあ、交渉開始と行こうじゃない。
「……提案、とは……なんでしょうか? 第三王子殿下」
掠れた声で元領主のオッサンが問い掛けた。二、三日前に見たときより痩せたわねー。奥さんとの離縁やその他諸々がよっぽど心労だったのかしら? ま、同情はしないけど。
「そうですねぇ……端的に言うと、わたしの指揮下に入り働くか、それとも療養施設に入るかの二択と言ったところでしょうか?」
「第三王子殿下の、指揮下へ?」
怪訝そう……というか、露骨に怪しむ顔をされた。
「ええ。ほら、皆さんサインしたでしょう? 罪を認め、全てを詳らかにする代わり、親類縁者には国家転覆罪を内密にする、との契約書に。というワケで、皆さんを公に犯罪者として扱うことはなるべくしたくないんですよねぇ。公に国家転覆罪の為極刑に処すと、影響が大きいので」
前も蒼やグレンに言ったけど、国家転覆罪を犯した領主の土地、そして領民にも影響が出るし。どこぞの土地みたくスラムに成り果て、犯罪者の巣窟になり、法や秩序が崩壊し、無法地帯になられては困る。
折角人が、人身売買やら買春やらと倫理感に反する連中を取り締まっているというのに。そんなことになったら、苦労が水の泡じゃないの! 可愛らしいロリやショタが犯罪に巻き込まれることなく、健全な美少女美少年……果ては美女や美青年に成長した方が美形だらけで、眼福目の保養間違い無し! みんなハッピーでしょ?
「かと言って、それなりの犯罪を隠し通せるくらいの小賢しさを持った人達をわざわざ病死や事故死させるのも、少々勿体ないと思いまして」
ま、さっさと殺しちゃった方が後腐れ無いという意見もあるだろうけどねー?
「……療養施設は、その名を冠しているだけの監獄ということでしょうか?」
「いえ、療養施設は、文字通りの療養施設ですよ。三食昼寝におやつまで付いて、働く必要は一切無く、医師や薬剤師、研究者達の健康管理の下、その指示に従いながらではありますが。それなりに自由に過ごして頂いて構いません。ただ、日常を過ごすだけで人類の未来に貢献できるという施設ですよ」
「……なあ、ネロ」
引き攣った顔で蒼が口を挟む。
「はい、なんでしょうか? シエロ兄上」
「その施設って、アレか? 医者や研究者とやらが、怪しい薬を飲ませたりする感じのやつだったりする?」
「そうですねぇ……別名、治験とも言うそうですよ?」
「それ、悪く言えばアレだよな? つか、どうマイルドに言ったって、人体実験施設って言わね?」
「ふふっ……人類の未来に貢献できる施設、ですよ」
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