そういうワケで、正妃であるアストレイヤ様に感謝なさい。
蒼は、【愛シエ】の舞台裏の残酷さに戦慄している。
ゲームシナリオでの正妃の印象は、主人公がシエロたんであるせいか、寵姫の存在に嫉妬した……もしくは、自分の息子のライカを王太子から行く行くは国王にする為にシエロたんやネロたん、ネリーちゃんを疎んで排除しようとしている、という感じに見えていたものね。
実際のところは、全く違っていたワケだけど。嫉妬などのみみっちい理由ではなく、政治的に……国の将来を考えた上で、シエロたんとネロたんがその母親共々厄介で邪魔な存在だっただけ。
そりゃあ、国王のレーゲンだけでなく、王太子のライカまでもがシエロたんに執着を見せるようになれば、シエロたんの排除に踏み切ったとしても、全くおかしくはない。
ほら? ここがBLゲームの世界だと思えばあれだけど、実際の王家で王位継承権上位者が男色家だって考えると、後継問題が大変でしょ。クラウディオやレーゲンみたいに既婚者で両刀なら兎も角として、だ。未婚の王太子が男色家は、ガチでまずい。
おそらく、彼女……アストレイヤ様が本気であたし達を排除しようと思えば、あっさりと適っていたことだろう。暗殺や……もし殺すのが嫌だというなら、適当な領地や遠くの国に人質として出してしまえばいい。でも、シエロたん……蒼とあたしは、まだ生きている。生かされている。
そして、離宮への居住を許されている。離れ離れにされると・・・あたしは兎も角。蒼の生存率が下がるような気がするし、滅茶苦茶心配になるから、本当にありがたいことだ。
『まだ確定していない未来、ではあるけどね? そういうワケで、正妃であるアストレイヤ様に感謝なさい』
『お、おう。まぁ……確かに。国を存続させて支えようと思ったら、俺ってめっちゃ邪魔な存在なんだよなぁ』
深い、やるせないような溜め息を吐いて、シエロたんへと偶に暗殺者を仕向けることになるアストレイヤ様を、納得したように見上げる蒼。
『・・・って、俺、今かなりマズってたりする?』
シエロたんに暗殺者を仕向けることになる張本人であるアストレイヤ様の執務室に、ネロorネレイシアに会わせろと命を狙われる(予定の)本人が殴り込みに来ている状況。
『そうね。誰が見ても、飛んで火にいる夏の虫ピーンチ! 的な?』
『・・・助けてください、お姉様』
眉の下がった情けない顔があたしを見詰める。うむ。美幼児の、若干恐怖を感じながらも助けを求めるように縋るお顔頂きました! ごはん大盛りで五杯はイケるわねっ!!
『お姉様に任せなさい! あとアンタ、シエロたんの不安げなお顔はゴチ♪だけど、アストレイヤ様の前で表情出し過ぎよ。もっとポーカーフェイスを鍛えなさい』
『わ、わかった』
と、泣きそうな顔を引き締める蒼。うむ。シエロたんの、不安を押し殺して我慢するような顔もまた善し!
「……ふむ。お前達とシエロ王子が、聞き覚えの無い外国語で会話をすると報告を受けていたが……確かに。全く聞き覚えの無い言葉だな」
「失礼致しました、アストレイヤ様」
「し、失礼しました!」
「いや、構わない。面白いものも見られたからな? やはり、子供は子供同士の方が気安いのだろう。ネレイシア姫は、本当にシエロ王子のことが好きなのだな」
「はい、勿論シエロお兄様のことは大好きですわ♪」
にっこりと満面の笑顔で頷くと、蒼が微妙にしょっぱい顔をする。だから、ポーカーフェイスだっつってんのに。全くもう、修行が足りないわね?
ここは恥じらうように、花綻ぶようなシエロたんの、温かくも美麗な笑顔で、ネリーちゃん(中身あたしだけど)と見つめ合い、アストレイヤ様に仲良し兄妹アピールするところでしょうに!
残念なことに、蒼にはかなり高度過ぎる要求だったようだ。これから先が思いやられるわね。やれやれだわ。
「ふむ……そうか。シエロ王子にも、茶と菓子を用意してやれ」
思案するような顔のアストレイヤ様に、テーブルに着けと言われたも同然の蒼の顔が引き攣る。
『ポーカーフェイス。嘘でも、嬉しそうな顔しときなさい』
ぼそりと呟き、
「シエロお兄様もお誘い頂き、ありがとうございます。お兄様は、わたくしのお隣に来てくださいな」
にっこりと微笑むと、椅子が運ばれて来た。
「お、お招きありがとうございます。正妃様」
蒼が礼をして席に着くと、グレンが緊張した面持ちで部屋に通され、シエロたんの後ろに控える。
「アストレイヤで構わん。あの男の正妃などと呼ばれるのは好かんのでな」
『……ぁ~、やっぱ仲悪ぃのか……』
納得したような小さな呟き。
「そう堅くならずともいい」
「は、はい!」
「好きな菓子を食べろ」
「あ、ありがとうございます」
緊張した面持ちのシエロたん……蒼のフォローをして、和やかにお茶とお菓子を頂く。うむ。今日もお菓子が美味しいわ~。
「では、そろそろ時間だ。今日のところはお開きにするが……シエロ王子。気が向いたら、また来るがいい。変な気を起こさなければ、歓迎しよう。護衛の子供にも食わせてやれ」
と、アストレイヤ様の休憩時間が終わり、同時にお茶会も終了。蒼とグレンはお菓子をお土産にと持たされ、あたしと一緒に部屋の外に出された。ちなみに、あたしにお菓子のお土産は無い。クソ女が煩いから断っている。
ここのお菓子美味しいのになぁ……残念!
読んでくださり、ありがとうございました。
茜「お姉ちゃんは立派な腐女子。でも、一応現実的な考えもできるのです」(。・ω´・。)✧